神父の横にいつの間にか男が一人立っている。

 心底くだらないようなものを見るように真っ赤な目でこちらを見ている。

 あれは、なんだ。

未見のサーヴァントはアサシンのみ。 

 だが、あの男がサーヴァントだとするならばアサシンなんてクラスであるはずはない。

 あんな、圧倒的なモノが暗殺者だなんて、そんなわけはない。

 暗殺者ならば背後よりこっそりと、だろう。

 あんな正面から心臓を抉りだしそうなやつが――――

 ――――――逃げろ

 脈絡もなくそんな思考が割りこんでくる。

 ――――――逃げろ

 なんだ、誰の思考だ。

 ――――――逃げろ

 ―――――うるさい、黙れ、私は魔術師になるんだ

 ―――――――――――――――――――――――――

 それで、ノイズは消えた。

「クラスはアーチャー、真名はギルガメッシュだ。コレは少々特異な例でな。細かい事は気にするな」

「アー、チャー……?」

 それは、あの赤い衛宮のクラスと同じ。

 遠坂のサーヴァントと同じ。

 つくづく、遠坂とは因縁がついてまわる。

 男はこちらの反駁をどう取ったのか不機嫌な声で

「我に不満でもあるのか、雑種。王に対して不遜は許さぬぞ」

「ざ――――?!間桐慎よ」

「知るか。さぁ、ついてこい雑種。なんならここに残ってコトミネと飯でも漁っていろ。我が行くのだ。食べ終わるまでにはこの戦争を終わらせてやろう」

 傲岸不遜を形にしたようなギルガメッシュはこちらを気にせずに教会を後にしようとする。慌てて後を追い、教会を出る直前言峰をちらりと見たが、この得体のしれない神父はやはり得体のしれない笑顔を浮かべていた。

 外にでてギルガメッシュに追いつく。

「霊体化しなさいよ。目立つでしょ」

「そんな事は下種のすることだ。敵は正面から圧倒的武力をもって押しつぶす。この身を隠すなど王たる我のすることではないわ。分をわきまえよ、雑種」

 く――――。

 なんだこいつ。

 どこまで我様なんだ。

「さぁ、敵はどこだ。案内することを許可する、光栄に思えよ」

「間桐慎」

「黙れ、女」

「間桐慎」

「―――いい加減にせよ」

「ま・と・う・し・ん!」

「それでは、シン。疾く案内せよ」

 ぬぅ。ライダーとは違った意味で疲れる。

 さあ、どうしようか。まずは――――――――――――――――そうだ。遠坂だ。まずは遠坂だ。遠坂を殺さなければ。ライダーの仇を取る。

「ほう―――――――」

「どうしたの?ギルガメッシュ」

「いや、なに。因果だと思ってな。さて、この家の主を殺せばいいのか」

「殺すのは私がやるから、あなたはサーヴァントの相手をお願い」

「ふむ、殊勝だな。魔術師でもないその身でこの戦争に参加するだけでなく、武装もせずにあの遠坂の娘に挑むとは。いや、シン。なかなかに面白い」

「―――私は魔術師よ」

「ほう?だが貴様に回路は見受けられぬが」

「それでも―――ギルガメッシュを、サーヴァントを従えているんだから私は魔術師よ」

「っく。そうかそうか、ふはは。ならば貴様は魔術師だな」

  不愉快に笑うギルガメッシュを置いて遠坂の屋敷の門に入る。

 と、その前に、ギルガメッシュに呼び止められた。

「待たぬか、魔術師の陣地に迂闊に足を踏み入れるではないわ」

「は?家に入らないでどうやって相手を殺すのよ」

「言ったであろう――――敵は圧倒的武力で殲滅する」

 ぱちん、と。

 ギルガメッシュが指をならすと、彼の背後の虚空からひと振りの剣が顔をのぞかせそのまま遠坂邸に向かって音もなく飛んでいく。着弾が見えた瞬間―――

 爆発、爆音、爆風。

 次に目を開けた時には柱の一本も残さずに、それなりの広さをもつ、それなり以上の結界が設置されていたはずの、もしかしたら桜の何かが残っていたはずの遠坂邸は、更地となっていた。ただただ、その圧倒的な暴力をもってほんの一瞬で丘の上のお化け屋敷は瓦礫の山となり果てた。

 ぶるりと、体が震え背中を昂揚が駆け巡る。

 ギルガメッシュ―――

 シュメールの都市国家ウルクの王。ギルガメッシュ叙情詩の主人公。

 旧約聖書やギリシャ神話のモデルとなったとすらいわれる世界最古の英雄王。

 この世全ての財を―――あらゆる宝具すら網羅するはずの蔵をもつ半神半人の王。

 ギルガメッシュ―――最っ高じゃない。

「家の主とサーヴァントを掘り出せ、シン」

「―――なんで私が?」

「たわけ、我の鎧が汚れるではないか」

「鎧って消耗品だと思うんだけど……」

 溜息をついてから、一歩踏み出そうとして違和感を感じ、ギルガメッシュを振り返る。あまりにも、あっけなさすぎるのだ。

「ギルガメッシュ、近くにサーヴァントの気配ってある?」

「いや、ないな」

「―――むぅ」

「こら、シン。何を悩んでおるのだ」

「ちょっとね」

 結界が壊れた今の状況で感じられないということは少なくともアーチャーはこの場にいない。では遠坂はどうか。こんな目立つ相手を従えてやってくる相手、しかも、遠坂は私をマスターと知っている。ラインを通じてのアーチャーからの報告でライダーが脱落したことを知っていたとしてもそれなりに手は用意するだろう。ならば、あまりにもあっけない。あっけなさすぎる。そう、あまりに、あっけなさすぎる。

 と、ギルガメッシュが剣を一本上空に向かって射出した、

「なにを――――」

 しているのと、続くはずだった言葉は上空で起こった爆発にかき消された。

 あの爆発はほんの数時間前に見た。あれはセイバーに傷を負わせたあの奇剣による爆発だ。そして、一拍置いてギルガメッシュが遠坂邸を瓦礫に変えたときと同量以上の剣軍を未だ残る爆炎に向かって射出する。

 そして、その剣軍のことごとくが爆炎の向こう側からさらに飛来するあの奇剣の群れと衝突、相殺しあって、夜の街を明るく照らす。

「シン、後ろに三歩下がれ」

 言われたとおりに三歩歩く。同時に、炸裂音とともに地面に親指大の穴が幾つも開いていた。

 これは、ガンド?

「まったく小賢しい。あの奇剣の弾幕にそのような物を紛れ込ませるとは。死にたくなければ必死で避けよ。我の宝具ではそのような小物取りこぼしてしまう」

「遠坂―――!!」

 叫ぶが帰ってくるのは奇剣とガンド。

 こちらが手の出ない距離からじわりじわりと削っていく。

 ガンド使いと弓兵ならばこれもまた正道であるが遠坂がこういう作戦で出るとは。

とてもではないが避けきれないのでギルガメッシュの後ろに隠れる。

「ぬ、王を盾にするとはなんと無礼な」

「マスターを守りなさいよ!」

 そしてさらに激しさを増す弾幕と時々交るガンド。

 しばらく降着状態が続くかと思われたが――――――――――不意に弾幕が止み、濛々と立ち込める煙の中から遠坂とアーチャーが現れた。

「遠坂――――アーチャー――――」

「ふん、また妙なサーヴァントを連れてきたわね、慎」

「無礼は許さんぞ、女」

「あなたに?それともマスターに?」

「無論、我に対してだ」

「なんだか、あんたとはとことん気が合いそうにないわ。この金ぴか」

「同感であるな。そのような贋作者を連れて歩くような雑種と気が合おう筈もない」

「いってくれるな」

  アーチャーは苦笑いを浮かべていたがふと、私に目を止め、

「貴様も、相当にしつこいな。せっかく逃がした相手がこれではライダーも浮かばれぬ」

「黙れ、衛宮のなれの果て」

「―――ほう。さて、ここはなぜ分かったとでもいうべきところなのかな」

「いくら外見が変わったところでその捻媚びた顔を変えなきゃ丸わかりじゃないの―――ギルガメッシュ、アイツは念入りに殺しなさい。まずは左手を千切って右手を潰して足を刻んで最後に頭を割りなさい」

「我はお前ほど悪趣味ではないのでな。せいぜいが我の財で出来るだけ豪華に殺してやるくらいだ」

 向かい合う、衛宮とギルガメッシュ。

アーチャーとアーチャー。

どのような不備がシステムに生じたのか。本来ならばあり得ない戦闘行為。最古の英雄に対して成れの果てがどう対するのか興味がないではないが、今は、遠坂を――――

「始めましょうか、慎。心配しないでいいわよ、ガンドはおろか強化だって使わないわ。どう?フェアでしょう」

「―――!バカにして!私は魔術師よ、魔術師同士の決闘なのよ、これは!」

「っは、いい加減自分を誤魔化すのはやめたら?みっともないわよ。あなた、他人や周りのことに対しては考えが回るのに、自分自身に対しては何も考えないのね」

「煩い!私は五百年から続く――――」

「既に腐れた間桐の末の更に残り滓。それがあなたでしょう。それとも、自覚、本当はしてるのかしら?だからそこまで魔術師であることにこだわる」

「違う!違う!違う!」

 叫びながら遠坂に向かって拳を振るう。

 弓道が格闘でないとはいえ張力十数sの弓を毎日引いていれば腕力、背筋力はついてくる。打撃に必要なヒッティングマッスルは十分に鍛えられている。遠坂は運動全般が得意だとは言っても主力はガンド。乱打戦に持ち込めば―――

「―――バァカ、慎」

「―――え?」

 遠坂はわずかに腰を落とした体勢まま左手を立て私の拳を弾き飛ばす。スパンという音が遠坂の足もとから響いたかと思うと「ヒュッ」という呼吸音が耳を打つ。

 ドムと。

 奇妙な打撃音が体に響いた。

「か――――!?」

 腹に遠坂の右拳が刺さっている。背中が痛い、背骨が痛い、頭が痛い。内臓が裏がえるか、さもなければ、ドロドロに溶けてしまいそうだ。痛いのに、苦しいのに、のたうちまわりたいのに、声が出ない、手足が動かない。

 これはなんだ。魔術ではないのか。

「開門八極拳、馬歩衝捶。只の中国拳法よ」

 中国―――拳法?

 そんなの、反則じゃないか。

「さ、どうする?て、こういうこと言うからアーチャーにバカにされるのよね、きっと。うん、それじゃばいばい、慎。実はね私、魔術師がどうこうではなくて、あなたの事単純に大嫌いだったわ」

 遠坂はそう言うと私に額に指を突き付けた。

 腕の魔術刻印に灯が付く。

「―――最後は魔術で殺してあげる」

「あら、もっと楽しみましょうよ。トオサカ」

 直前、実に楽しそうな白い声が割りこんできた。

 この声は、あの白い少女の、

「だれかしらね、あなたは」

 遠坂は狙いを私の額から声の主に移し、用心深く問いかける。

 イリヤスフィールは5mほど離れたところに巨人を待たせたまま、こちらに向かって歩いてきた。私たちもサーヴァントが手元にいないからということだろうか。

 その顔には自分がこんな所で絶対に死ぬはずがないという確信がある。

 魔術師同士の決闘ならば自分に絶対の勝利があると信じて疑わない顔だ。

「アインツベルンよ、トオサカ。ふふ、それにしても、御三家が一堂に会するなんて何年振りのことなのかしらね。聖杯戦争ごとに参加はしていてもこう、面と向かうのは珍しいんじゃないかしら」

 やがて、少女は私たちの所までやってきた。

 結局遠坂は、撃たなかった。

 撃てなかった。

 別に少女の形をしたものを、人の形をしたものを、殺すことに抵抗があった訳でも、それが反撃のきっかけになって殺される可能性を恐れたわけでもないだろう。

 可能性ではなく、決定事項として100%殺される無駄な魔術勝負を避けただけだ。

 少女の真意がどうあれ、先ほどの中国拳法ならば渾身を込めれば必殺となる距離まで近づいてきた。手段はより確実なものを。

 それほどに今の遠坂は慎重になっている。

 その判断は間違いではなくとも最悪だった。

「あなた達二人を私のお城に招待するわ」

 少女の赤い瞳と私の視線が絡みその言葉が私の耳を打った時、急速に意識がブラックアウトした。視界が絞られていく中で遠坂も同じように倒れるのが横に見えた。

 ギルガメッシュ達の戦闘音はとても遠くで響いていた。

 

ギルガメッシュが手に持った■■を私の胸に押し付けてくる。

いつものように、時間が遅延する。

ぐにゃりと、■■が変形して押し付けられる。

ぐちゃりと、私の胸が裂ける。

べきりと、無理やりに通された肋骨がへし折れる。

ずぶりと、手を引き抜かれる。

胸から泥が溢れてくる。

それは私の体を駆け巡り、隅々にまで行きわたる。

すでに根絶し、一ミクロンの隙間すらない、痕跡にまで押し寄せてくる。

べきべきみちり ぐちゃぐちゃべたり。

内からあふれる泥は私を通して体外に顕現する。

やがて、思考も泥に埋もれる。

「――――――」

 目が覚めた。

 周りは見覚えのない、間桐とは比べ物にならない豪奢なつくりの部屋である。

 記憶をさぐり、ほどなく現状に青ざめる。

 遠坂は近くにいない。

 ドアはすぐそこにあるが、流石にあぶないか。窓はあるが、どうだろう、これは飛び降りるには高すぎる。その分遠くまで見渡せるがその視界はすべて、森に蔽われている。

 天頂に日は高く、すでに昼。

「ライ」

 ダーとほぼ無意識に言いかけて、改めて、現状を認識する。

 ライダー。ライダー。ライダー。ライダーの―――バカ。

 首をふり、そっとドアをあけ、周りを窺う。

「――――寝てる間に空輸でもされたのかしら」

 どこだここ。

 うん、絶対日本じゃない。

 無造作に敷かれているカーペットとか広いくせにキチンと光が通るように設計されている廊下とか、ところどころに見える装飾品とか。

 まるでどこかの城をそのまま移築してきたかのようにすべてが非日本的整合性をもって存在している。

 本物の金持ち、というかお貴族様だ。

 恐るべしはアインツベルン。

 冬が永住するとすらいわれる僻地に千年もひきこもっておきながら何だこの財力。

 日本の只の資産家程度で収まっている間桐とは格が違う。

 なんだか魔術とかそんなもの以前の問題で勝てる気がしない。

 くそう、富裕層め。

「―――イリヤ、待ってる。早く来る」

「のうわっ?!」

 いきなり後ろから声をかけられ、みっともない叫び声をあげながらのけぞれば、白い服を着た女性が立っていた。ほぼすべてを覆い隠すようにしたつくりの服から手以外で唯一のぞくその顔はしろく、そしてその目はイリヤスフィールに似た赤色。アインツベルンの人間は皆このような容姿なのだろうか。

「早く」

「く、来るなら来い!?できれば来ないで!!」

「?来るのはあなた」

 小首をかしげながら私の腕をつかみぐいぐいと引っ張ってくる。

「ちょっと!」

「はやく」

 抵抗むなしくずるずると引きずられてしまう。

 女性の方はといえば人一人分の重さなど気にもならないのか傍目には特に力む様子もなく歩いてく。こっちだって必死で抵抗しているというのに意にも解さない。

 とりあえず今この場でどうこうという気もなさそうなので抵抗するのをやめついて歩いているとやがてあるドアの前で足を止め、特にノックもせずにいきなり開ける。

「イリヤ、マキリの人連れてきたよ」

「ご苦労様、リズ」

 中には優雅に紅茶を飲んでいるイルヤスフィール、その後ろで微動だにしないまま苦い表情でこちらを見ている女性、そして剣呑な表情で私を睨んでいる遠坂の三人が居た。

―――帰りたい

 本気でそう思った。

「シン。いつまでも立ってないで座ったら?ほら、リンもお菓子食べてよ。美味しいよ?」

 いつの間にやら、呼び名がマキリ、トオサカからシン、リンに変わっている。私が来る前に何かあったのだろうか。ていうか本当にお茶に誘ったのか。用心しながらも注がれた紅茶に口をつける。

が――――

「うぅ……」

 美味しい。

 ものすごく美味しい。

 紅茶の香りが脳天に突き抜ける。

 フルーティーなフレーバーが心地いい。

 そしてティーセットも当然のように値段の見当もつかない高級品。

 多分値段を聞いたらこのまま固まってしまう。

 遠坂が不機嫌なのもそれが原因かもしれないというくらいにこの城に在る物は何から何まで一級品。そして生活用品である以上は普段使いにすることに寸毫ほどのためらいも持たない。無論、客に出す際にはさらに一つグレードが上のものを。

やばい。

 正真正銘の上流階級だ。

「美味しくなかった?」

「え?あ、いいえ。すごく美味しい…」

「そう、良かった。―――安心していいわよ。特にこの場でどうこうしようという訳ではないし、それに聖杯戦争は夜だけのものでしょ?」

 誰にそんな事を聞いたのか。

 ともあれ、身の安全が保障―――されているのか?――――されているのなら無理に間違いを正すこともないだろう。

 イリヤスフィールはさて、と。私に向って

「ねぇシン?あなたのライダーはどうしたのかしら。昨日は随分と趣味の悪いサーヴァント連れていたけど」

「ライダーは―――もうやられたわ。今はアレが私のサーヴァント」

 この返事に不思議そうに顎に指を当て

「え?そんなはずないんだけど?今退場してるのはキャスター、アサシン、セイバー、ランサーのはずよ」

 何でそんな事を知っているのか。そんなもの監督役の言峰くらいしか知らないはずではないのか。いや、アインツベルンも御三家ならば私の把握していない裏技を知っているのか。それにしてももう半数以上退場していたのか。キャスター、アサシン、セイバー、ランサー――――セイバー?

 衛宮は、どうしたんだろう。

「お兄ちゃんは、どうなったのかしらね」

「衛宮は……きっと死んでなんかない。何しろアイツは大まじめに正義の味方を目指すバカだから。きっと死なない」

 そうだ。

 私は昨日衛宮に握られた手の熱さを覚えている。

 私を助けてくれた正義の味方を知っている。

 正義の味方が死ぬときはあらゆる敵を倒してからだ。

 だから、こんな半端なところであいつが死ぬわけがない。

「死んだに決まってるじゃない。バカじゃないの」

「―――!遠坂……」

「実際、誰かとコンビを組まない限りあの衛宮君が生き残れるわけないじゃない。どういう経緯で解消したかは知らないけどあなたとの協力関係が消滅した時点で彼に生き残る眼はないわ。セイバーだって無傷じゃなかったんでしょう?だったら、他のマスターにしたら狙い目じゃない」

 それは、お前のアーチャーが――――!

 こちらの意志を読み取ってか遠坂はクスリと酷薄に微笑みながら、

「そうね。やったのは私のサーヴァント。あんなやり方は私の趣味じゃないけれど、アーチャーの独断だけれど、やったのは私のサーヴァント。それで?それがどうかしたの?」

「遠坂――――!!」

「シン、やめなさい」

 大きくはない。

 何か実際的な行為がともなった訳でもない。

 だけど、この私よりもはるかに年下に見える少女の一言で私の怒りは急速に萎んで終いに消えて無くなってしまった。後に残るのは恐怖と最初に会った時に感じた経験済みの死の感覚。

 そうだ。遠坂はピリピリしているのだってアインツベルンの財力とか階級の差なんてどうでもいいものでなく籠の中にとらわれている現状を打破する手段を持ち得ていないことにいら立っているに決まってるじゃないか。そして、おそらくは、その現状を今の今まで実際の感覚として自覚していなかった私に対しても。

「お兄ちゃんはきっと死んでいない。そうね、シン。私もそう思いたい。お兄ちゃんはきっと死んでいる。そうね、リン。私もそう思う。だけどね、二人とも。どうしてそのことでそんなにいらついているのかしら。どうせ他人事でしょう」

 イリヤスフィールの問いに遠坂は少々顔を顰めながら、

「む―――別に。只、参加者としてあんな平和ボケなまま戦争続けて死んだんじゃ寝覚めが悪いって言うか……」

「ふうん、リンはまじめだね。シンはどうして?」

「私は――――」

 どうしてと言われれば、私は衛宮のことが―――

「衛宮のことが好きだから。好きな人の安否は気になるし、死んでるなんて言われたら冷静にはなれない」

 口に出し

 自分の言葉を自分で聞いて改めて実感する。

 私は衛宮のことが好きなんだ。異性間の友情ではなくおそらくは恋愛感情を体を持って私は衛宮のことが好きなんだ。どの時点でそうなったのか、それは分らない。ライダーとセイバーに問われた時は即答できた。けれど、幾度となく命を救われたからか、手を握っていてくれたからか、消えたことに気付いてくれることが分かったからか。

 とにかく私は今衛宮のことが好きなんだ。

「ふぅん?間桐さん、衛宮くんのことがねぇ、へぇ、そうなんだ」

 くししと、

 あかいあくまが笑っていた。

 しまった。墓穴掘った。

「へぇ、シンはお兄ちゃんのこと好きなんだ。ふぅん。そうなんだ」

 くすくすと

 しろいこあくまが笑っていた。

 しまった。墓穴の底に地雷を仕掛けたようだ。

「うん、まあそれはまたその内に聞くとして、ちょっと別のこと聞いてもいいかしらね、慎」

「なによ」

「うん、具体的に言うとね、明日から私はどこに住んだらいいのかなー、とか」

「野宿でもすれば?」

「ええ、そうね。あの瓦礫の下には遠坂の歴史とか宝石とか秘術とか桜との思い出とか色々、ええ、もう本当に色々埋まってさえいなければ、ね」

「がんばって掘り返しなさい。――――ああ、なんだったら家に来る?メイドとしてなら雇ってあげてもいいわよ。ふふ、楽しみだわぁ。私に対して傅くあなた。ほうら、手始めにご主人様といってくれたら置いてあげてもいいわよ?」

「腐れて堕ちろ。あなたが自分のことを下衆と認め魔術師を諦めるのなら雇われてあげてもいいわよ?」

「―――思ってたよりは仲がいいのね、あなた達」

「イリヤ、私はすごく仲悪そうに見えるんだけど」

「ふふ、リズ、日本にはこういう諺があるそうよ。そう、ツンデレ」

「違う!あなたは今ものすごい勢いで日本を誤解している!」

「―――ねぇ慎。ツンデレってなに?」

「ここに情報社会から隔絶された人間が!引き籠り一族以上に情報に疎い人間が!」

「シン、あなたは今とても迂闊な事を言ったわ」

「ふふ、間桐さん。貴方と話してると心の贅肉がごりごりと削がれていくわ」

 おっと?

 墓穴に首だけ出して埋められた気分。

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