葛木の拳を受けたライダーが地面に倒れ伏す。

 取り立てて不思議なことでもない。

 葛木はあの拳を受ければ間違いなくその身を砕かれると悟り、ライダーの拳が自分の顔に触れるか触れないかのその一瞬の見切りで体を交わしただけだ。だが、それを実行できるだけの葛木の技量、度胸、決断力。

「葛木、一体―――何者」

「どこにでもいる只の朽ちた殺人鬼だ」

 葛木は天気の話でもするようにあっさりとそんな事を言ってのけた。

 そうか、やはりそれが葛木の異常か――――

 しかし、衛宮が私の手を握ってくれる限りそんなもの怖くもなければ恐ろしくもない。

「気持ち悪い。さっさと死ね」

 葛木は私の言葉に聊かの反応を見せることもなく私たちの横を通り過ぎキャスターの元へ向かおうとしたが、自分を睨みつける衛宮に気がついたのか口をひらく。

「―――衛宮よ、お前は先ほど誰も死なせたくないと言ったな」

「――――ああ」

「人を殺すのはそんなに悪いことか」

「な、にを」

「いや、いい。ただな、衛宮。私は殺すぞ。アレの邪魔になるようならば、殺すぞ。私は殺されぬ限りは殺すぞ。衛宮、お前のそれが信念ならば私の信念はアレの望むことを叶えることだ」

 そう言うと葛木は改めてセイバーと交戦するキャスターの元に向かった。

 最高の対魔力を持つセイバー相手ではキャスターも分が悪かろう。実際に防戦一方といった感じだ。

「なんで―――そこまでサーヴァントに尽くすの?普通逆でしょ」

「アレは、美しいだろう」

「―――はぁ?」

 喋り過ぎたとでも言いたげに葛木はさっさとセイバーに向かっていった。

 いや、あの、もしかして、惚気られたのか、私は。

 あの鉄面皮の下ですごく恥ずかしかったのか、今の台詞。

 あ、セイバーがぶっ飛ばされてる。

 おお、見えない剣を挟み受けって絶対人間じゃねー。

 たこ殴りだ。

 セイバーが弱いのか葛木が強すぎるのか。

 わお、何だあの桃色空間。

 キャスター、手からの出血気にしろよ。

 ていうか、英霊と呼ばれるほどの魔女ってことはあれが最高の魔術師?

 あはは、もうなんだかどーでもいーや。

「衛宮、かえろ」

「え?あ、いや。とりあえず葛木先生を止めないと」

「ライダーを殴ったのはムカつくけど、いーじゃん。もう放っときなよ」

「あ、うん……なんかあれはほっといてもいいような気がするけど、うん、とりあえずさっきの殺す発言は一応」

「あ、そう。がんばれー、正義の味方。私はライダーを起こしてくるから」

「挫けるなー」

 言って歩きだそうとした衛宮がぴたっと足をとめいきなり私に覆いかぶさってきた。

「え、衛宮?!」

 道の向こうに転がされていたセイバーが何かを叫んでいる。

 なんとか回復したらしいライダーがこちらに這って来ようとしている。

 その向こう、月光に浮かぶ、赤い弓兵。

 手に黒塗りの弓。

 そして雨を霰と矢が降り注ぐ。私を、衛宮を、ライダーを、葛木を、キャスターを、セイバーを、この場のすべてを巻き込んで矢の雨が降る。

 ザクザクと、ライダーに針が生える。

 ザクザクと、矢が衛宮を切り裂く。

 ザクザクと、それでもやまぬ矢が私の髪や頬を裂く。

 雨が止み、ライダーの体がぐらりと崩れる。かろうじて息はある。

 その向こう、葛木とキャスターは抱き合ったまま、いや、キャスターをかばう形で抱きしめていた葛木の背中を貫通した矢がキャスターの命をも貫いていた。

「アアァァァァァァアアアアチャアアアアアァァァァァァアアアアアアアアアアッッ!!」

 喉が裂けそうに叫びながらセイバーがアーチャーに切りかかる。

「―――――I am the bone of my sword

 アーチャーはそれをあざ笑うように弓に再び―――あれは何だ。

 捩じれた―――剣。

 その奇剣をまるで矢のように弓につがえ、

「――――偽・螺旋剣」

 放たれた奇剣はセイバーを中心に爆炎を巻き起こす。

 なんだ、あの無茶苦茶な攻撃は。

 いや、それ以前に、遠坂は如何した。

 あんな行動、遠坂が許すはずが。

「凛には少し眠ってもらった。ラインも閉じた。さぁ、夜は短い。手短に済まそう」

 息も絶え絶えのライダーは憎々しげにアーチャーを見ながら口を開く。

「アーチャー、あなた、私の腕を―――」

「ああ、食った」

 アーチャーがこちらに歩み寄ってくる。

「まさか、伊達酔狂で腕を持ち帰ったと?そこまで悪趣味ではないつもりだ。」

 赤い騎士がこちらに寄ってくる。

「サーヴァントの魔力供給のもっとも単純な方法は魂を食うことだ。少々薄味だったが英霊の腕は流石に溜まるな。ふむ、状況は昨日と似たようなものだな。さぁ、ライダー。今度は首を貰って行こう」

 また一歩。

 また一歩。

 また一歩。

「――――黙れ。お前が首を置いていけ」

 アーチャーがライダーの前に着くころ、衛宮がライダーを庇うように立ちはだかる。

 衛宮は両の手に双剣を持ってアーチャーと対峙する。

 アーチャーは、顔に手を当て

「く、くくくくくくく」

 やがて、大きく口をあけ笑い出す。

 まるで、何もかもを飲み干そうとするように大きく口をあけ笑う。

「は、ははははははは。くはははっはは。ああはっははははは。ははははっはああああああははっはははっははっはあ。くはははっはははっはは」

「何がおかしい」

「はあっははははっはあっはは。分るまい。お前には分かるまいよ、衛宮士郎」

 いって、更に高く大きく哄笑をあげる。

 やがて、笑いをおさめ、衛宮を射殺すように視線をむけ

「聞こう――――お前は正義の味方か?」

「――――ああ、そうだ」

「ならば――――――理想を抱いて溺死しろ」

 衛宮とアーチャーが切り結ぶ。

 手に持つ剣は共に双剣。

 反転した鏡像のように二人は相似形をなしている。

 使用する武器がアーチャーの模倣なら、その運用法もまた、アーチャーの模倣。

 傍から見れば

 まるで、アーチャーが二人。

「―――ぐ」

 だが、

 オリジナルを凌駕するには未だ足らない。

 衛宮の左腕がだらりと垂れさがる。腱を切られたのか、そのまま剣をとり落とす。

 英霊と人間というそれ以前の問題として衛宮の動きはアーチャーには及ばない。

 だがなぜだろう。

 衛宮の動きに不慣れな様子はあっても不自然な様子がないのは。

 まるでそれが衛宮自身の理想の身体運用法であるかのように。

 いや――――もういい。

 もう誤魔化すのはやめだ。

 私は最初にアーチャーを見た時に気が付いていたじゃないか。

 アレは、アーチャーは衛宮だ。

 あれは衛宮がいずれたどりつく可能性を秘めた衛宮だ。

 おそらくは、正義の味方を張りとおした末に英雄と謳われた衛宮だ。

 だからアーチャー、お前はそんな風に磨れた眼をしているのか。

 やめろ、衛宮にそんな目は似合わない。

 戦闘中にも関わらず、アーチャーが衛宮に問いかける。

「衛宮士郎、お前は百人いれば百人を助けたいのだろう」

「当たり前だ」

「一人を助けたければ十人殺せ。十人助けたければ百人殺せ。百人助けたければ、千人助けたければ、万人助けたければ、殺せ。老若男女区別なく殺せ。敵味方の区別なく殺せ。親類縁者の区別なく殺せ。皆殺しにしろ。誰もいなければ誰も死なない」

「―――ふざけるな。だったら俺は一人を助けるために十人を生かす。十人を助けるために百人を生かす。百人を助けるために、千人を助けるために、万人を助けるために、生かす。老若男女の区別なく生かす。敵味方の区別なく生かす。親類縁者の区別なく生かす。誰も死なせない。皆がいれば誰も死なない」

「馬鹿め、餓鬼め、救いようのない愚者め。やはり素っ首叩き落とす」

「っは、やってみろ。その前にお前を打倒してやる」

 だんだんと、

 衛宮とアーチャーの間にズレが無くなってきた。

 バカめ。

 衛宮のバカめ。

 アーチャーを真似ればアーチャーになるのは当然じゃないか。

 悪霊を装えば悪霊になるに決まっている。

「―――シン」

「ライダー?大丈夫なの」

「あまり……シン、逃げてください」

「できれば今すぐにでも逃げ出したいけどね、ライダーと衛宮を置いて行くわけにもいかないでしょ?」

「それはとても嬉しい台詞ですが、あなた方が逃げる方が現実的です」

「そんな物、犬にでも食わせなさい。私はあなたと衛宮と、ついでにセイバーと一緒に逃げるの。―――サーヴァントならマスターに従いなさい」

「あなたはまったく……シンでなければ殴っているところです」

「残念ね。ねぇ、ライダー、あなたが座に帰るまでにみんなで街に行きましょう。服を買って映画を見てお昼に公園でサンドイッチを食べてぬいぐるみでも買って、そんなの魔術師らしくはないけれど、ライダー、みんなで街に行きましょう」

「―――いいですね。ならばまずは彼らを助けましょうか」

「もちろん、あなたが死ぬのは論外よ。皆って言うのは自分も含めた皆なの」

「神にでも誓いましょうか」

「あなたの二人の姉に誓いなさい」

「……分かりました。姉様達に誓って」

 呆れたように溜息をついてからふらりと立ち上がるライダー。

 ガチャガチャと音を立てながら刺さっていた矢を無造作に抜き取ったせいでまた新たに血が吹き出し足もとの血だまりが嵩を増す。

「シン、シロウがなぜアーチャーと渡り合えているか分かりますか」

「アーチャーが嬲っているんじゃないの」

「それもあるのでしょうが、それ以上にシロウの異常な回復力で何とか均衡を保っているようです。それでも首を絶たれれば死ぬのでしょうが」

「つまり―――?」

「シロウの回復力はおそらくセイバーによるものでしょう。ならば、セイバーはまだ現界している。まずはセイバーと合流します」

 言われてセイバーの姿を探せば、先ほどの爆炎の中心からさらに五メートルほど離れたところでアーチャーと衛宮の戦いを憎々しげに睨んでいた。傷だらけではあるもの一応は五体満足であるようだ。ただ鎧を編む魔力すら回復に向けているのか今はあの青いドレス姿である。

 しかし合流するといっても、まずはあの戦いのそばを通らなければならない。

「―――つっきりますよ」

 こちらの逡巡何するものぞとライダーは先ほど抜いた矢をまとめて衛宮達に投げつける。

 衛宮に当たらないようにする配慮など一切無し。

 先ほどアスファルトを抉ったその怪力を存分に発揮しての投擲。

 すぐに私を小脇に抱えその矢を追うように跳躍する。

 突如迫る矢に衛宮達は一瞬切り合いを中断し必死で捌く。それを眼下に収めながらセイバーのそばに着地。

「大丈夫ですか、セイバー」

「あなたほどではありませんよ―――シン、アーチャーは何者ですか」

「―――衛宮の、なれの果て」

 そう、あれは成れの果てだ。

 だから、衛宮、早くこっちに来い。

 お前が成れの果てに付き合って、なれの果てに至る必要なんてないんだ。

「さて、と」

 ライダーは釘剣についた鎖をジャラリと鳴らす。

「うまくいくといいのですが……」

 ぼそりと呟いて、釘剣をアーチャーに、ではなく衛宮にむかって投擲する。

 アーチャーはその攻撃が自分に向けられたものでないせいで、

 衛宮は単純に技量の不足で

 ともにその攻撃に気を払うことができなかった。

釘剣が衛宮の右肩に深々と刺さる。

「ぐ、が、あああああああああああ!!」

「ライダー!?」

 ライダーは答えずそのままぐいと鎖を引っ張る。

 当然の帰結として、釘剣と、釘剣を打ち込まれた衛宮がこちらに向かって飛んできた。

「ぬあああああああああ!?」

 放物線ではなく地面との平行線を描きながら

「――――フィッシュ」

 何を満足げに呟いているんだお前は。

 ちなみにキャッチングはセイバー。

「ライダー!人のマスターに何を!」

 これにも答えずライダーはにちゅっと生々しい音を立てて釘剣を引き抜く。

抜いた端から治っていく衛宮、本当に人間か。

ライダーはこちらに向かうアーチャーを見据えたまま、

「シロウ、私はあなたにシンを守るように頼みあなたはそれを了承した。ならば、それ以外のことはすべて無視してシンを守りなさい。さもないと―――頭から丸のみにしますよ」

「ぐ―――ライダー、俺はあいつと決着を」

「お黙り」

「ぐぅ……」

「さてそれではメンツもそろったところで、逃げましょうか」

 ライダーの足もとにたまっていた血だまりがふうっとうきあがり空中に方陣を描く。

 方陣は光を放ちやがて天馬が姿を現す。

ひょいひょいと私と衛宮を騎乗させ最後にセイバーを乗せる際に

「あなたには騎乗スキルがありましたよね?」

「?はい」

「よろしい、それでは―――駆けなさい、ペガサス」

 母親の声を受けペガサスが嘶き跳ね上がる。

「ライダー!?あなたも乗るのよ!」

「いいえ、シン。その命令は聞けません。あの男に借りを返さなければ。彼はえらくシロウにご執心のご様子。後一歩で殺せるところだったのだから道理でしょう。そこで、この、瀕死の私に、おそらくは彼に及ぶべくもない私に、足止めをされ、シロウを生かして返してしまう。なかなか素敵でしょう?なに、私にはこの眼があります」

「ライダー!」

「ああ、それと―――街に行くのはまた今度にしましょう」

 それを最後にペガサスは天上に駆け上がる。

 どんどんと、ライダーが小さくなる。

 アーチャーがこちらを見上げ、憎々しげに顔を歪めるとライダーに向きなおった。

「セイバー!ライダーのところに戻りなさい!」

「無理です!この天馬は竜種に近い神秘をもつ!私の騎乗スキルでは御しきれない!」

「―――衛宮!令呪を使いなさい!二個でも三個でも幾らでも使いなさい!はやく、はやくしなさい!ライダーが、ライダーが!」

「あ、ああ。セイバー!乗りこなせ!」

 衛宮の手が光を放ち、それが収まる頃にはペガサスがその暴走を止めていた。

 そして―――同時に――――私の鞄の中で―――偽臣の書が火を噴いた。

 慌てて取り出すも、ぼうぼうと、火の勢いは増すばかり。

「あ」

 それは、ライダーの令呪。

「あ、ああああ」

 それは、ライダーの生存を示す証。

「あああああああああああああああああああああああああああ」

 それが、燃えて、灰になる。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 ライダーが、死んだ。  

「あああああああああああああああああ あ  あ   あ    あ     ああああ  ああ   あああ  あああ  ああ ああ あああ ああ あああ  あああ あ ――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」  

 

Interlude in

 遠く離れる天馬を見送ってからこちらに向かうアーチャーに視線を戻す。シンにはああ言ったものの敵はもはや暗黒神殿を解除しようとその前に首を落としえる距離にまで迫っている。例えここで首を落とされた所でサクラにマスター権が戻るだけであるし、天馬もすぐさま消えてしまうという訳でもない。ならば悪あがきはよして潔く斬首を受け入れるとしようか。そもそも悪あがきをするだけの力も残ってはいないのだが。

 それでも偽臣の書が燃えてしまえばシンは私が死んだと思い込んでしまうだろう。それは少しばかり心苦しいものがあるがサクラに対して行った因果が返ってきたものとでも思ってもらおう。サクラ本人は毛ほども気にしていない風であったが。

 しかし改めて、彼女らは分かり難い。

シンはサクラの事を実の妹と思い、故に彼我の境遇の差に狂わんばかりに固執している。シロウの言葉を借りれば複雑に単純。その感情の発露は暴力というもっともな分かりやすい形だが根底には色々と縺れ合ったコンプレックスがある。

サクラはシンのことを嫌っているのかいないのか、判然としない。家族として心配するかと思えばまったくの無関心でもある。その感情の出所は家族に対する忌避感じみたものなのだろうがこちらはシンと逆に単純に複雑といったところか。

また双方の関係は暴力行為による結びつきが大きい。シン自身はそれを引け目に感じている節があるが正直な話そこまで気にすることでもないだろう。サクラがシンに対して無関心であるという事は逆説的にいつだってその関係を修復できるということでもある。但しあくまでサクラが私に殺害を命じるまでに、という期限がついてしまうが。

サクラにシンを殺せと言われた時果たして私は何と答えるか想像してみる。

考えるまでもなく答えは是だ。

マスターの命令である以上私に是非は無い。根本的にはまあ、人殺しは好きなのだろうけど進んでやろうというほどでない。それでも優先順位でいえばシンはシロウよりも上位だがサクラよりは下位なのだ。だというのに、それを想定したときに私は我が身に対する不甲斐無さのような物を感じた。親族殺しなどというのは正しく化物の所業ではないか。彼女を、彼女等をそういう物にしないために私は応じたはずではなかったのか。

私は昔も今も只二人を、両手で抱えられるだけの人数を守れればよかったのにそれすらも――――。

そんな胡乱なことを、アーチャーの剣が私を切り裂くまで考えていた。

Interlude out

 

 私の絶叫が夜空に響く。

上空に吹く風は地上のそれよりももっとずっと冷たい。

その冷たい風が灰になった偽臣の書を吹き散らす。

「あああああ、書が、ライダーの令呪が……」

「慎!?おい、しっかりしろ」

「衛宮ぁ……」

 視界が涙でぼやける。

 ぼろぼろととめどなくあふれる涙が散らされ飛んでいく。

 衛宮の胸に顔をうずめ押えようともせずに泣きじゃくる。

「衛宮ぁ……衛宮ぁ……ライダーが、ライダーがぁ……私、乗れって言ったのに。皆で逃げようって言ったのに、皆で街に行こうって言ったのにぃ……ライダーがいないと……私、私ぃ……」

「慎、お前は教会に保護してもらえ」

「え―――――――?衛宮、何を?」

「お前の安全のためにはそれが確実だ。セイバーもだいぶ消耗している。再契約を用心してお前を殺しにきた相手がいた場合、守りきれる自信がない」

「衛宮……、やだ、私は衛宮に守ってもらいたい。私を、裏切らないっていったよね?助けを求めるなら助けてくれるって言ったよね?」

 衛宮は、首を振りながら

「納得してくれ。それが多分最善だ」

「知らない!そんなの知らない!衛宮!約束したでしょ!?ライダーに言われたでしょ!?私を守りなさい!」

「ライダーに言われたからだよ、慎。俺は俺の取りえる手段のうち確実なものを持ってお前を守りたい」

「なによそれ!丸投げしてるだけじゃない!お前が言われたならお前が守りなさい!」

「慎!」

「な、なによぅ……」

「俺は、俺という人間はまた人を見殺しにしたんだ。葛木先生とお前を秤にかけてお前を助けたんだ。だからお前は死なないでくれ、お願いだ。頼む、教会に行ってくれ」

 そんなことを泣きそうな顔で言う衛宮に私は逆らう事が出来なかった。

「……わかったわよ」

「ありがとう――――セイバー」

「はい」

 教会に着く頃にはペガサスは雲が風に散らされるように、霧が朝日に溶けるように消えた。これでもう、ライダーの居た証拠は何もない。

 なにも、ない。

 ライダー。

 ライダー。

 あなたがいたから私は魔術師になれたのに。

 あなたがいないと私は、只のつまらない一般人に戻ってしまう。

 いやだ。

 そんなのはいやだ。

 ライダー。

 ライダー。

「―――慎、戦争が終わったら、街に行こう。ライダーの分も」

「―――――――!」

 反射的にバチンと、衛宮の頬を平手で打つ。

「すまん……」

「――――お前は死なないでよ」

「――――ああ」

 言って、

 私は教会の中に、

 衛宮は教会の外に、

 ギギィと、

 重い音をたて、

 別れる。

 

 これで、

 私の、

 間桐慎の聖杯戦争は

 魔術師としての間桐慎は

 おしまい

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――いやだ。そんなのは、いやだ。私は魔術師なんだ。私は魔術師になったんだ。それをこんな事で、この程度のことで、諦めてたまるものか。たまるものか。たまるものか。たまるものか―――――――――――――!

「――――ようやっと、仕事というわけか」

「言峰――――綺礼」

「ここに来たのは君が初めてだ。戦争が終わるまで身の安全を保障しよう」

「まだよ、まだ終わらないわ。私は戦争に復帰してやる。そうよ、御三家が一、間桐の娘としてこんな所でおわるなんて―――――――」

「どうやって、かね?」

「なんとでもしてやるわ、間桐の魔術の神髄は「略奪」。他者の支配こそがその真骨頂。そうよ、もっと、もっと、ライダーよりも、もっと力のあるサーヴァントを略奪すればいいのよ」

 は、はははは。

 そうだ、簡単なことだったんだ。

 そうすれば、私は又、魔術師になれるんだ。

 自然、笑いが漏れる。堪え切れない。そうだ、魔術の基本じゃないか、足りない分は余所から持ってくる。ははは、そうだ。私は魔術師なんだからそれでいいんだ。

「―――そうか、ならばちょうどいい」

「なによ、サーヴァントでもあてがってくれるって言うの?」

「いかにも」

「は?」

back next

二次創作へ