いつの間にやら人間が一つ、ガラス戸の前に立っていた。その体に傷はない。ふん、ライダーの役立たずめ。―――なんだ、今のノイズは。ライダーは私を魔術師にしてくれた恩人なのに。

 にやにやと笑っている青い男、いや

「ランサー、私のサーヴァントは?」

 ランサーは大げさに肩をすくめて、

「まあ、ばれるわな―――嬢ちゃん、あれは本当にサーヴァントか?存在が薄すぎる。っておいおい。坊主、せっかく殺してやったのに生き汚えな?」

「そのバカは正義の味方だからね、死ににくいのよ」

「さーて。どうしたものかな?坊主を殺しなおすかマスターを先にたたくか。どうしよう。どうしたら。お前らどっちが先に死にたい?」

 槍を地面に立てたままそんな事を聞いてくる。

ライダーはどうなったんだろう。やられたか?いや、それなら偽臣の書が燃えるはず。ならば、逃げおおせたか。うん?何かおかしいな。ランサーは先ほどライダーの存在の薄さを指摘した。ならば、楽に倒せただろうに何故―――

「ランサー、あなたのマスターはマスター殺しをあなたに命じたのかしら?目的は、偵察ではないの?」

ランサーは片眉をあげて視線で私に先を促す。

「さっき学校であなたはこういったわね。一晩で二騎。二戦ではなく、二騎。私は希望的観測ではなしにこう宣言しましょう。あなたのゲッシュは「倒すな」でしょう?クー・フーリン」

「はっ、賢しいな。嫌いなタイプだ。ふん、まったくもって嫌になるな。有名なのも善し悪しか。ははは、だがな嬢ちゃん?外れだ、ちいっと惜しいな。―――っとぉ?なんだよ、人の話を邪魔するなよ、坊主」

 こちらと話しているランサーの後ろから近寄った衛宮が手に持った何かで打ちすえようとしたところでひょいと交わされ足蹴にされる。あれは―――丸めたポスター……。バ、バカー!

「衛宮!?なにしてるのよ」

「うるさい!早く逃げろよっ。何暢気に話してるんだ?!このバカ!」

「ウルサイ!衛宮のくせにバカって言うな!」

「―――いや、実際楽しそうだな。お前ら」

心底呆れた風にいうランサーは手に持った槍をひたひたと足元の衛宮の頬にあてつつ、

「サーヴァントを呼びな、嬢ちゃん。途中で逃げられて消化不良だ。このまま素直に坊主を殺すのもつまらない」

「いわれなくても――――」

ライダーを呼び出そうとして息を吸い込んで、そのまま飲みこんだ。いきなりランサーが衛宮に乗せていた足を退け脇に飛んだのだ。行動の意味が分からず一瞬の硬直の後、その意味を理解する。ガラスが割れる音とともにランサーが今までいたところを通り過ぎ銀色の点がすごい勢いで迫る、私の方に!当たる、射さる、抉られる!

「ひぃああああ!!」

無様にも悲鳴をあげて横跳びに転がって息も絶え絶えに起き上がると襖を突き破って廊下の壁を破壊した釘剣が鎖によって持主のところに手繰り寄せられたところだった。そちらにはもちろんライダー。

「こ、殺す気か!マスターを殺す気か!この痴女!」

「失敬な。シンの友人が足蹴にされていたので牽制しただけですよ」

しれっというライダー。眼帯の下の目線を合わせようともしない。

いや、目線はこちらを呆れたように見ているランサーに向けられている。

「うーん。あれだな。お前らは仲が良さそうでいいな。羨ましい」

「あげませんよ。シンは私のマスターです」

 そう言うと目線は固定したまま私をその豊満な胸に押し付けるように抱きしめる。

 くそ、嫌がらせか。桜ともどもこの胸は私に対する嫌がらせか。

「放せ!息苦しいわ!力バカ!」

「もう少し。ええ、ご褒美を下さい。シン。あの男の足止めは骨が折れました」

 いって、にやりと笑って、口を吸われた。同時に唇を僅かに噛みちぎられ漏れ出た血液をぺろぺろと丹念に舐めとられる。消費した魔力を供給しているのだろうが、それ以上に下心が感じられるのはあながち間違いでもないはずだ。

「――――この痴女!」

「ふふ、相変わらず、シンは可愛いですね」

「うん。前言撤回。お気の毒にな、嬢ちゃん」

「煩い!煩い!煩い!ライダー、あの男を黙らせろ!」

「かしこまりました」

 ライダーは最後の私の頭を軽くなでてからランサーに向かっていった。くそう、魔術師にしてくれたことは感謝するがあの性癖は何とか矯正しないと。サーヴァントに食われる。笑えない。違う、私の想像していた魔術師ってこんなんじゃない。

「慎―――今のは」

「聞くな、触るな、思い出させるな。お前は土蔵にでもかくれていなさい」

「いや、あの」

「はやく、行ってよ。衛宮は何もできないよ」

そうだ、今この場で何とかできるのは私だけだ。

 衛宮ではなくて、私だ。そう、衛宮ではない。

 必死で抵抗する衛宮を土蔵に押し込め、閂をかけて派手に戦うライダーたちに向きなおる。形勢はやはりランサーの有利か?ライダーの釘剣は続く鎖でその軌道を蛇のようにうねる投擲を可能するが、それも武器を手放すことに変わりない。しかも相手は最速のランサー。必然持ち手のナックルを用いた、もしくは釘剣を釘剣として使用する近接戦闘に切り替わる。となると近中距離の融通の利くランサーに分がある。

 どうする。どうすれば――――

 不意に。

 後ろの土蔵から光が洩れた。

 これは。この光は。どこかで。

 閂が二つに割れる。中から斬った?なにで?無論、剣で。

 中から現れたのは。衛宮と。

 矮躯の騎士。

 

なんで。

どうして。

お前は。

また。

私を。

裏切り者。

だから、お前は、敵なのに、どうして、裏切り者、私が無事なのをみて、そんなに、安心してるんだ―――――――――――――――――――衛宮。

「無事か。慎、どこか怪我してないか?制服に血が!」

「お前のだよ」

「ふう、驚かすなよ」

「衛宮、アレは……なに」

「大丈夫、味方だ」

 眼前の戦闘よりもそれを見ていた私の方に先に駆け寄ってしまったマスターに困惑気味の騎士はしばらくがきんがきんと競合いを繰り返すライダーとランサーの方を見ていたが、状況をつかみかねているのか指示を乞うように衛宮に声をかけた。

「マスター」

「とりあえず、専守防衛」

 まて。こいつは今何を言った?サーヴァントを召喚して目の前の戦闘を放っておいて、専守防衛?状況が分かっているのか。

「―――あの、マスター?」

 ほら、呆れてる。いや、怒っている。ガントレットをはめた手をギュッと握りこんでいる。うん、サーヴァントの筋力であんなモノをつけていたらそれだけで十分に殺人道具足りうる。

「君がどういうモノかは知らないけど、あんまり女の子が進んで剣を振るものじゃない」

「侮辱する気ですか」

「そんな気は毛頭ない、あたりまえのことだ」

 こ、このバカ、自殺志願者か。目の前のこの騎士の怒気とか殺気とか苛立ちとか分らないのか。はやく、加勢させろ。でなければライダーが。あれ、音が消えている。戦闘が、終わっている。ま、さか。ライダー。ライダー。焦って振り返ると、息も絶え絶えの体でライダーがそれでも、そこに立っていた。一つ大きく息をついてこちらに歩みよってくる。

「とりあえず、感謝します。シンの友人。ランサーは貴方が召喚を行ったのを見て離脱しましたよ。まあ、また来るかもしれませんけれど、今晩はとりあえず大丈夫でしょう」

 ランサーは私と衛宮が協力しているとでも考えたのだろう。事前の衛宮の行動が良い伏線になったか。と、それよりも、ライダーだ。流水のようだった髪が無残にもライダー自身の鮮血で赤い斑に染まっている。

「…だ、大丈夫?」

「ああ、シンの優しさが身にしみます。ですが、ええ、とりあえず―――こちらに来て下さい。ふぅ、一晩で三戦とは身がもちませんね」

 けだるげに言うと、ライダーは視線を騎士に向ける。騎士もそれを受けライダーに視線を返す。対峙した二騎の英霊は周りの空気を帯電させるように緊張感を徐々に高めていく。

だ、だめだ。無理だ。やめて、ライダー、この組み合わせは、とても―――

 と、騎士の方が先に緊張を解いた。ライダーの方はいまだ臨戦態勢を解かないが、それでも片眉を上げ、

「仕掛けないのですか?今なら、楽にとはいかないまでも勝機がありますよ」

「我がマスターは荒事が好みではないようで、専守防衛だそうです。ええ、私個人としてもあなたのような怪我人をいたぶる趣味はありません。それになにより、令呪を使ってでも止められそうなのですよ」

 騎士は呆れたように衛宮の方を見る。ああ、確かに衛宮ならそれくらいやりそうだ。使いようによっては逆転の切り札となる令呪をこんなことで使われてはたまるまい。自分でなぜ騎士が引いたのか分かっていないらしい衛宮はひょいと片手をあげて

「とりあえず、家に上がって茶でも飲みながら俺に状況を説明してほしいんだが」

 このとき騎士から見ればちょうど令呪を掲げられた形になり、提案というよりもむしろ脅し。衛宮本人は意図しないところでどんどんサーヴァントの好感度を落としている気がする。なにしろ、戦闘兵器として召喚されて最初の命令が専守防衛。いかにも不服だろう。

 居間に戻ってみれば、まさしく惨憺といった感じ。そもそもガラス戸が粉々である。これではおちおち話もできない。さて、どうしようかな。うん、ここは一つ衛宮に私のサーヴァントの優秀さを見せつけておこう。

「ライダー、ガラスなおして」

 ―――あれ、何でそんな愚かものを見るような雰囲気を

「ライダー?」

「ええ、ええ、シンに悪気はないのでしょうけれど。はい、多くは望みませんとも。シンは可愛いし美味しい。それで十分です」

「な、なによ」

 なにを呆れているんだろう。おもわず首をかしげそうになる私に衛宮がその問いを返す。

「へぇ、その人ライダーっていうのか」

 あ。

「うわぁ……ごめん、ライダー」

「いいんですよ」

 ライダーはにこりとほほ笑むと特に呪文を口ずさむこともなくガラス戸を元に戻した。流石にキャスターの適性を併せ持つことはある。まあ、ガラスの扱いは初歩らしいけど、それでも私としては自分のサーヴァントの能力に満足である。

「おう、凄いな。すっかり元通りだ」

 ふん、わざとらしい。衛宮だって魔術師ならこれぐらいできるだろうに下手な世辞だ。衛宮らしくもない。しかし衛宮はまじまじとガラス戸を眺めながら本当に感心したように

「いや、本当にすごいな。うん、いかにも魔術師って感じだ」

 流石に奇妙に思い出したのか、ライダーが衛宮に話しかける。

「あの、シンの友人?」

「衛宮士郎」

「では、シロウ?あなたも魔術師ならこれぐらいできるはずでしょう。私の知識は聖杯から降りてきたものだけですが初歩の初歩、どころかそれ以前の技術の筈ですよ、ガラスの扱いは」

「そうなのか?俺にできるのは歪んだ投影と強化だけだ。とてもこんなこと出来ない」

 今、何を。そんな半端な魔術しか使えない?

「え―――衛宮、それ、ホント?」

「む、嘘ついて何になるのさ。実際俺は素人に毛が生えたような三流魔術師だよ」

「はは―――そっか。うん、お前は衛宮だもんね」

「なんだよー」

 ああ、うん、衛宮、だもんね。うん、よかった。その程度なら、まだ、許せる。私に隠れてやっていたことがそんな程度のことなのならまだ私の精神の余裕の範疇だ。

 ―――背後から騎士の殺気を感じる。好感度は下がっても忠誠度MAXか。

 とりあえず、戦争の説明を始める。

 願望器、聖杯。

 英雄を使役するサーヴァントシステム。

 魂喰いとしての性質。

 三度だけの反則技、令呪。

 そして、つまり、どういうことになるか。

 話が進むにつれ、眼に見えて衛宮の機嫌が悪くなる。正義の味方め、そんなに殺し合いが気に食わないのか。最後に新都での不自然な連続ガス漏れ事件が十中八九いずれかのマスターの魔力集めであろうことを告げる。結局それが決め手となり衛宮は決意を表明する。

「慎、俺はこの戦争に参加するぞ」

「そう」

「そんな馬鹿げた騒動、俺がとっとと終わらせる。一般人どころかマスターだって誰ひとりだって死なせてやるもんか」

「はぁ?あの、衛宮?」

「ああ、そうだとも。俺が、この俺が、俺の住む街で、俺の手の届くところで、俺を含めた殺し合いなんて、認めない。始まったならば、誰ひとりだって死なせずに終わらせる」

「この、衛宮め―――ふん、じゃあ申請にでも行きましょうか。丘の上の教会の神父がこの戦争の監査役よ」

「いいのか?こんな時間に」

「きにする事もないわよ、仕事なんだし」

 私が立ち上がり、衛宮が立ち上がり、ライダー、騎士がそれに続く。ああ、そういえば

「衛宮、クラスは?」

「セイバーらしい」

「マスター!」

 おお、答えてくれるとは思っていなかったが。しかし最優のセイバーを衛宮が。生意気な。いや、もうそれしか残っていなかったとか?時期的にそれもあり得るか。

 おや、なんだかライダーとセイバーの間に妙な連帯感のような雰囲気が。ていうか

「ライダー、霊体化して休んでおきなさい。それと、セイバーも」

 頷き、ライダーは実体化を解いたがセイバーはそのまま残っている。どうしたんだろうと目線を向ければ、その精悍さに似つかわしくもなく気まずそうに視線をそらし

「あ、いや、私は」

「そりゃあ、現界したばっかりで魔力量は余裕だろうし敵を迎撃しやすくても目立つのよ。その鎧もその下のドレスも」

「あー、その、な。慎?セイバーは霊体化できないらしい」

「何言ってるの?霊体化出来ないなんてことあるわけないじゃない」

 が、当のセイバーは申し訳なさそうに顔を伏せるばかり。ありゃあ。―――さて、御爺様から聞いた話では霊体化ができないなんてことはあり得ない筈だが。ふぅん、何の伏線かな。

「ま、いいか。衛宮、セイバーに服。なるべく目立たないの」

 てくてくと。

 教会に続く道を歩く。

 私と衛宮が並んで、一歩遅れた形でセイバーが続く。

 前から、青、赤、黄色。

 そう、黄色。黄色いレインコート。衛宮のバカ。目立たないのって言ったのに。

「ん?どうした、慎もセイバーも何か言いたいことでもあるのか?」

「いいの、衛宮はそのままでいてね」

「おう?」

 ああ、きっと今の私は柄にもなく慈母のような微笑みを浮かべているのではあるまいか。

 諦めることと悟ることってなにか違うのかな。

 後ろを歩くセイバーの顔を見ることはできないが、口に出さずとも伝わる不満が空気を伝って感じ取れる。そんなことはかけらも感じないのか衛宮がのんびりとした調子で

「なぁ、慎。参加者は俺たちを含めて七人なんだよな」

「ええ、遠坂を含めて後五人。遠坂はあの赤い―――」

 赤い―――誰だ。あれは、どこかで。あれ、私はあのサーヴァントを知っているはずではないか。アレは■■だ。そうだ、あれは■■だったではないか。―――■■って何だっけ。どうしようもない矛盾が私の頭の中に渦巻く。思い出そうとしても思い出せない。それを認められるほど私の精神に余裕はない。

「ああ、あの性格の悪そうな赤い奴な。そうか、遠坂も参加者か。これは好材料……なのかな」

「どういうこと?」

 一旦、思考を打ち切り衛宮の言葉の意味を問いただす。

「いや、顔見知りなら説得もしやすいかなって。遠坂だってきっと殺し合いはしたくないだろ?いくら魔術師たって、遠坂だし。それに仲間に出来たなら参加七組の内相手をするのは四組になるじゃないか」

 なんだその理屈。遠坂だから?ふん、衛宮。お人好しめ。遠坂を知りもせずにそんな事を。アイツは割り切れる奴だってことを知らないのか。十年前、未だ十に僅かに足りぬ身でさえ桜を間桐に差し出すことを諾々と了承した奴だというのに。殺すことも殺されることも、死ぬことも死なせることも全て了承した魔術師だというのに。しかしそういう意味では私はまだ、魔術師ではないのかもしれない。魔術師のみが参加するこの戦争に参加している時点で魔術師にはなれたが、殺すことも殺されることもわざわざ八節の中に身を置いてようやく理解できる私は精神的な意味ではまだ魔術師にはなりきれていない。そもそも、最後はその三組で殺し合いになるということも―――こいつには想像の外何だろうか。

 ああ、それに、衛宮。もしお前が遠坂と戦う気がないのなら、私とお前の協力関係は成立しえない。丘の上までのわずかな道程で関係は破綻してしまう。

「どうした、険しい顔して」

「ねぇ、衛宮。お前は私と遠坂が敵対したら、どっちの味方になるの?」

「和解させる。俺は正義の味方だ、みんなの味方だよ」

「ふん、偽善ね」

「俺の好きな言葉だ。行動に移す分口ばっかりの善より好感がもてる」

 そこで会話が途切れ、ほどなく教会にたどりつく。

 なぜか入りたがらないセイバーを置いて中に入る。

 出てきたのは神父、言峰綺礼。

 私を魔術師と認めてくれるあたりは好感が持てるし言うことは小難しいが分かりやすい皮肉屋だとでも思えばいい。まぁ人の傷を弄るのが趣味の人格破綻者であるが。さて、衛宮はどんな傷を切開されるのか。

 聖堂の中に響く言峰と衛宮の問答。

 最終的に衛宮が切れかけたところで話が終わった。

 あとについて出ようとしたところで言峰が衛宮にナイフを一本突き刺した。

「喜べ少年。君の願いはようやく叶う」

 言峰の言葉を頭で反芻する。願いね。衛宮の願い。

―――正義の味方。

正義の味方に対しては悪の権化が必要か。

なるほど、言峰も的確に過ぎる。

教会からでてきた衛宮の不機嫌っぷりに面喰っているセイバーは、私に説明を求めるように目線を向けるが、これは私の関わる問題じゃない。

「さて、衛宮。どうするの」

「なにがさ、言ったろ。俺は誰も死なせずに戦争を終わらせる」

「もういいわよ、それは。私が言いたいのは、衛宮は私に協力するのかどうかってこと」

「あれ?俺はてっきりそういう風に話が進んでいるものだと」

「衛宮、私が欲しいのは私だけの味方よ。どちらかを選べと言われてどっちもとるような、その程度の味方なら、要らない」

 そう、要らない。私の味方に、私の側に来てくれないのなら、お前なんか、要らない。

 なのに衛宮はうんうん唸りながら困ったように腕を組む。

「あのな、俺は別に慎を敵に回したいわけじゃないんだ」

「だったら私だけの味方になってよ、衛宮」

「それはできない。俺にだって矜持ってものがある」

「―――そう、衛宮はどうあっても私の味方になる気はないのね」

「いやだからな?お前だけの味方にはなれないって言ってるんだ」

「一緒よ!」

「どうしたらいいのかな。あ、そうだ。セイバー、ちょっとあのセリフ借りるぞ」

「はい?」

「えーと……これより我が剣は貴女と共にあり運命は貴女と共にある。―――ここに衛宮士郎は間桐慎と契約を結ぶ」

「は―――」

「これでどうだ?剣の英霊セイバーの誓いの言葉だ、俺はこの誓いを持って慎、お前と共闘したい」

「う、な、なによ。そんな口先だけの契約なんて―――」

「マスター!」

 おお、痛そう。あのガントレットでレバーにフック。すごい音がして衛宮の体が真横に吹っ飛ぶ。もんどりうって転げた衛宮の襟をもってがくんがくん揺さぶりながら、

「貴方は!騎士の誓いを!何だと思っているんですか!軽々しく口にしないでください!」

「あ、う。す、すまん。慎。さっきの無し。今、何か気の利いたセリフを―――」

 おお、もう一発。顔面に拳が埋まるが襟を掴まれているので衝撃がすべて首に吸収される。折れたかな。―――あれはセイバーでなくてグラップラーとかファイターとかそういうクラスなのではなかろうか。

「貴方は!騎士の誓いを!何だと思っているんですか!軽々しく撤回しないでください!」

「どうすればいいんだ!」

 なんだか泣きそうな衛宮。

 こっちもあまりの怒りに涙ぐんでいるセイバー。

 傍からは黄色いテルテル坊主に撲殺されかけているようにも見える。

 何だこの状況。

 聖杯戦争。

 七人の魔術師。

 七人の英雄。

 殺し合い。

 ―――全ては遠き理想の果て

 とりあえず、今この場において、そんな殺伐としたモノは皆無だった。

「あー、慎。とりあえず、協力しないか。俺には魔術の基本的なところが分らない。お前はライダーが疲弊している。補い合えるところを補い合おう。味方だ何だで揉めるならいっそ損得勘定で動いてくれても構わない」

 ぼっこぼこにされた後にそう提案してくる衛宮。ツワモノである。

「お前が裏切りたければ裏切ればいい。俺を切りたければ切ればいい。助けを求めたければ求めればいい。俺は裏切らない。俺は切らない。俺は助けを見逃さない。―――慎、俺はお前だけの味方にはなれないがお前の味方になることはできる」

「何よ、結局言ってることが変わらないじゃない」

「うん、ごめん。今はこれが精一杯。花でも出そうか?」

「―――いいよ。お前はバカだけどバカなりにいい仕事を期待してる」

「ありがとう」

「ふん」

 まあ、いい。そのうち私を選ぶようにしてやる。

 だからとりあえず、後ろで息を荒げてこちらを睨んでいるお前のサーヴァントをなんとかしてくれ。怖い。無性に怖い。むしろお前はなんで英霊にぼこぼこにされて普通に話していられるんだ。まさか本当に正義の味方だから死ににくいとでも言うのか。もしや学校でも自力で生き返ったのか。オー、ゾンビ。オー、ゾンビ。

 

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