―――午前二時 冬木市 間桐邸

 だらりだらりと

 今だにドアを挟んだままで会話を続ける。

 話せば話すほど

 聞けば聞くほど

 慎と慎二が混ざっていくように思える。

 どちらが基盤という訳でもなく、まあ、要するにこの半年ぐらぐらと揺れっぱなしだった天秤がようやく落ち着き始めたということなのだろう。そのための切っ掛けが俺かどうかはわからないが少なくとも、これで昼間の分の詫びは済んだ。

 だがしかし、

「いい加減眠いな」

「もうちょっと話そうよ」

「じゃあ中に入れてくれよ。寒いし、それに背中と尻が痛くなってきた」

「はは、そんなに気軽に女の部屋に入っていいの?」

「友達の部屋に入るくらいなら、別にいいだろ」

 それもそうか、と呟いてからドアが開けられた。

 ――――絶句

「ああ、もう、この期に及んで未だショックを受けるとは思わなかったよ」

「私のセンスに文句でも?」

「無いさ、無いとも、ありません。諸手を挙げて降参です。所詮俺は馬鹿スパナだ」

「何それ。ほら、早く入りなよ」

 言われて入りソファに腰を掛け、その対面に慎が座る。

 少し前かがみになり挑むようにこちらを見る慎。

いつだったか、戦争中か、初めてこの家に来た時か、若しくは別の時か、その時もこんな風に慎二と向かい合った覚えがある。

恐怖はなく、怯えはなく、卑屈さもなく、

自信に溢れ、活力に満ち、気力を迸らせ

綽綽と、泰然と、鷹揚に

いっそこちらを喰う様に、向かい合う。

そうか、慎二、お前、そこに、いるのか

「―――慎」

「なに?」

「ありがとう」

「何がよ、衛宮は相変わらず、バカだね。要領ってものが無い」

「ああ、それで、いいさ」

 ありがとう。

 胸の内でもう一度、呟いた。

―――午前八時 冬木市 間桐邸

日も昇り、部屋の窓から見える木の枝に雀が見え出したころに、会話を切り上げた。

要するに、腹がへったのだ。

「朝食、ご馳走になってもいいかな」

「―――別に今から追い返すほど薄情でもないよ。ただ、藤村先生には電話入れときなさいよ。衛宮がここにいるから、桜も行ってないだろうし。今ごろ机でも食べてるんじゃないの」

「ありありと浮かぶな――――――あ」

「どうしたの?」

「いやいや、何でもないよ?」

 ――――腰抜かすようなご飯作って待ってるわよ

 昨日、言われた言葉が蘇る。基本的には有言実行の人であるから、まさしく腰を抜かすような料理を作っていたのだろう。お好み焼き丼とか。意表をついてお好み焼き蜜柑丼とか。どうしたんだろう。自分で処理したかな。藤村組の皆さんに食べさせたかな。

 何にしろ、連絡は入れとかないとまずいよな。

 キッチンに向かえば、既に桜が朝食の準備を始めていた。

 こちらに気づいたのか首だけ振り返り

「おはようございます。姉さん、お皿、出してください」

「いいわよ、どれ?」

「そこの平皿を」

「何枚いるのよ、用件は最後まで言いなさい」

「三枚で足ります―――姉さん?」

「何よ」

 しばらく、昨日までとは打って変わってまるで自分の方が優位であることを疑わぬような、まるで慎二の様に鷹揚に喋る慎をまじまじと見つめた後、はあと溜息をついてから、こちらをむーっと睨みながら

「もう、先輩たら余計な事を」

「えーっと、ごめん」

「なんで衛宮が桜に謝るのよ。謝るくらいなら手伝いなさい」

「お前はやらないのか」

「だって、衛宮は日本に帰ってきてからほとんど家事してなくてストレス溜まってるんじゃないの。その機会を取り上げるだなんてとてもとても」

 いやはや。

 まったくもって。

「―――本当に余計な事をしてくれましたね。先輩」

「おっと、藤ねえに電話入れなきゃ。こっちだったよな?」

 そそくさそそくさ

 遠坂と暮らして覚えた防衛術。

 三十六計逃げるにしかず。

 こういうときはとんづら、である。

 まあ、逃げる先は虎穴という気もするが。

 数回コール音が鳴るのを待たずに

「士郎ぅ、お姉ちゃんひもじいよぅ」

 なんて、弱音が飛び込んできた。

「悪い藤ねえ。今日こっちで朝食食べとくわ。味噌汁くらい作れるだろう。勝手に使っていいから」

「慎ちゃんか桜ちゃんが来ないとお姉ちゃん、お味噌がどこかも分かんないよぅ」

「―――水でも飲んどきなさい」

「酷い―――それで、仲直り出来た?」

「ああ」

「うん、よくできました。帰ってきたらぎゅってしてあげよう」

「遠慮しておこう」

 受話器をもどしキッチンに戻る。

 食卓には既に慎、桜、そして、間桐臓硯が座っていた。

 起動式の製作者の一人。

 今となっては当時を知る最後の一人。

 間接的には俺の本来の親の仇でもあるのだろうが、まあ、それは居眠り運転の交通事故でメーカーにクレームをつけるようなものだし。既に顔も声も思い出もなくした相手にそんな義理もないだろう。

 ていうか、普通に食事するんだ。

 幽かに甘ったるい腐臭が漂う気もするが気にしなければ気にならないというレベル。

 慎はボケていると言ったが傍目にはむしろ矍鑠とした様子で雷画爺さん並に生き生きしているように見えるのだが、これはどういうことだろう。

 臓硯はその洞の様な目をこちらに向け、それから、慎の方に顔を向け話しかける。

 その様は孫に話しかけるものとは少し違う、奇妙な言い方になるがそれはまるで十年来の友人に話しかけるようなそんな気安さがかんじとれた。そして臓硯のセリフもまた、そんな感覚を肯定するようなものだった。

「ユスティーツア、こ奴何者じゃ、永人の従者か」

「いいえ、彼は私の友人ですよ。ゾォルケン」

 ああ、そうか、つまり、そういうことか。

 彼は今、あの頃を生きているのか。

 慎が彼女を装うのも、

 桜が何も言わないのも、

 ライダーがこの場にいないのも、

 全ては、彼の妄想を補完するためか。

「はじめまして。衛宮士郎と言います」

「ふむ、衛宮か。聞かぬな、どこの魔術師じゃ」

「歴史も持たない流れの魔術師です。父が少々アインツベルンと関りがありまして、今回はそのつながりで同席させていただいております」

 すらすらと、嘘ではないが虚言が口を吐く。

 俺の言葉に臓硯はそうか、軽く呟いてから再び慎に視線を戻し

「令呪の方はそろそろ出来る。そちらはどうじゃ」

「こちらはもう少し、かかりそうですね。すみません」

「苛々。よいよい。ゆっくりと確実に行こう。なに、儂とてそちらに及ばぬが三百年待ったのだから喃。今更いくら待たされようとも。唯一最大の懸念は永人が妙なミスをせぬことじゃがな」

 ああ、遠坂。お前の所のご先祖様は一体どんなうっかりをしたんだ。

 臓硯の顔にものすごい苦渋の表情が浮かんでいる。呪いに近い遠坂の性質は二百年以上前でも健在だったようだ。むしろ、遠坂のうっかりは希釈されているのかもしれない。そんなふうに考えられるほどに彼の表情は苦々しいものであった。

 還元濃縮された遠坂のうっかり。

 おお、寒気がする。

 実際、起動式が出来上がっている以上、当時は上手くいっていたのだろうが。

 あれ、そういえば遠坂のご先祖様、正確には遠坂永人はほとんど土地を貸し出しただけで聖杯戦争のシステム設計は娘の方が受け持ったとか聞いたな。

 ――――一度うっかり失敗して爪弾きにあったんじゃないだろうな。

 和気藹藹、とまではいかないものの極無難に朝食を終えそれぞれが席を離れる。さて、俺も家に戻って明日までに大空洞の地図を描かなければと思ったところで、その前に、ふと彼に聞いてみたいことがあった。

 三者三様に願いはあったのだろうが

 はたして

 彼の願いは何だったのか。

 結局、何で俺はあんな目に合わなければならなかったのか。

 親の仇を取る義理がないが、

 今だに耳に残る、今だに眼に映る、今だに喉を焼く、今だに皮膚を焦がす、

 あの黒い太陽はいったいなぜ作られたのか。

 それを聞く権利くらいは、あるだろう。

「―――儂の願いか」

「はい」

 臓硯はふむと、俺を眺めてから

「不老不死じゃよ」

 それは随分と一般的な夢であった。

 有史以来、おそらくは最もポピュラーな願望。

 五百年かけて追いかけるには少しばかり拍子ぬけしてしまうほどにあっさりとした希望であった。

 不意に、眼の前の老人に対して失望の感情が浮かぶ。

 ついで、腹の底から笑いの発作がこみ上げてきた。

 何を期待していたわけでもないが、あれだけのことをしておいて、つまるところ死にたくないとは、随分と滑稽な事に思えたのだ。五百年を生きて尚死にたくないとは、それは我儘というものだと思った。

 しかし、臓硯はさらに言葉を続ける。

「というのは建前でな」

「――――え」

「何を驚いておる。不老不死は並の命では至れぬほどに手間がかかる故の手段であろう。其処を履き違えては意味はないぞ、小僧」

「じゃ、じゃあ、本当の目的は――――」

「ふぅむ――――笑うでないぞ?」

 臓硯はまるで、宝物を見せびらかすように

 もしくは、共犯者に計画を打ち明けるように

 五百年間追い求めた己の理想を口にした。

「この世、全ての悪の廃絶じゃ」

 おもわず、胸を突きぬかれたように感じた。

「この世に楽園は、ない。あらゆる憎悪、あらゆる苦しみを、全て癒し消し去る為には肉の身では足りぬ。であるならば許される場所へ旅立つ他はない。人という命を新しいものに変える。そのために、奇跡を儂は求めるのじゃよ」

 しびれたような舌を震わせて、できるだけ軽く聞こえるように

「それじゃ、まるで救世主ですね」

「そこまで大げさなものになる気はないわ。精々が狂人の戯言よ」

「狂人ですか」

「うむ、正気にては大業成らず、じゃよ。お若いの」

 カカカと笑いながら臓硯は俺から離れていった。

 まいった。

 まさかそれが願いとは。

 五百年。

肉体が腐り、魂が腐り、ついに精神までが腐り、人間の三要素全てが崩れて尚この世にとどまり続ける理由が、そんな、単純なものか。

不老不死以前のおそらくはこの世でもっとも単純な願い。

誰かの幸せを願う。

かっこいいじゃないか、畜生。

案外、あの頃の臓硯となら、俺や爺さんと気があったかもしれない。

もしくは、爺さんがこの先もずっと生きていたらあんな風になっていたのかもしれない。

だから不意に意地悪を言ってみたくなった。

「そういう理想は期間限定じゃないんですかね」

「理想には終わりがない故に理想というのじゃよ」

ああもう、つくづく、かっこいいなあ。

―――午前九時 冬木市 衛宮邸

 頭の中でまず解析したお山と空洞の設計図をすり合わせ、お山を構成し、断面を構築し、祭壇に至るまでの大空洞をズーム。

 後、視線軸を回転し、二次元平面から三次元立体に次数を増加。

 瑣末な横道を削除、主道を強調、上下、左右への広がりの認識。

 出来上がった地形図を製図用紙上に複写。

 描きあがった地形図を矯めつ眇めつ検図して、間違いがないのを認めてから縮尺、距離その他の必要情報を描き足していく。

間桐邸での朝食の後戻ってみれば藤ねえは既に居らず、机の上に「お昼ごはんに期待する。弓道場にいるよ」と書置きが残されていた。くしゃくしゃと丸めてゴミ箱に放り込み地図の作成に取り掛かった次第である。

ちなみに後ろには慎が控えていたりする。

ていうか俺を背もたれに読書をしている。

「重いんですがね、慎さん」

「そうかい、衛宮さん」

「……暇なのか」

「うーん。いつもなら昼間は家事してるんだけど、今日はなんだか面倒な気分なのよ。誰かさんのせいで自分が元々どういうスタンスか、思い出しちゃったんだね」

「桜には悪いことしたかなぁ……」 

 びくりと。

 背中越しに少々大げさな身ぶるいとともにその震えがそのまま乗ったような声で

「も、戻った方がいいかな……さっきも手伝わなかったし、桜、怒ってるかな……?」

「――――」

 そうだよなぁ。

 トラウマってそう簡単に消えないからトラウマなんだよなぁ。

 朝のあれは寝不足で気分が高ぶっていただけで、少し間をおけばこうなるのか。

 ていうかもしかして一人で間桐邸にいるのが怖かったのか。

 男に戻ることはもう諦めているにしても、せめてこの桜に対する怯えだけはロンドンに帰るまでになんとかせねば。桜にしても慎に対しては悪感情を持っていないようだし。

 姉妹にしろ兄妹にしろ、家族なのだから対等にならないと。

 余計な御世話と言われても、何しろ俺は正義の味方を目指した男だ。身内位は救わないと立つ瀬が無いというものだ。ショック療法的な手段とはいえ慎二のことを認めたのであれば、先ほどの言のようにそのスタンスを思い出したのあれば、大丈夫。きっとうまくいく。慎二、お前もそこにいるのなら、お前の二人目の妹に当たるこの少女を励ましてやってくれ。後押ししてやってくれ。お前が欠片でもいいから桜と兄妹になりたいと思ったことがあるのなら、頼む、お願いだ。昨日の晩に垣間見たお前の精神を少しばかり与えてやってくれ。

 こちらの沈黙をどう受け取ったのか、膝を抱え込むように丸まったらしく背中から重量が消える。そして小さな声で

「何か言ってよ……」

「ああ、うん。ま、俺から適当に言っておくよ」

「―――ありがと」

 喜色を覗かせながら礼を述べた慎はふと思いついたように

「衛宮、藤村先生にお弁当届けなくていいの?もう十一時だよ」

「ああ、じゃあ俺たちの昼と一緒に何か作ろう」

「て、手伝おうか?」

「慎二はそういうこと言わないよな」

「だから、私は慎だよ」

「そうか、なら頼む」

「うん」

 嬉しそうに言う少女に、こういうところはそのままでいてほしいなぁと随分と身勝手な事を思ってしまった。

 しかし、今更の感がぬぐい切れないが慎に対する俺のスタンスは慎二に対するそれと同じでいいのだろうか。昨日まではあくまで慎二だと認識していたが今は慎として、一人の少女として認識してしまっている。

 果たして異性間に友情は存在しうるか否か。

 昨日の買い物の際に必死で肯定しようとしていたことだが、これからの俺の人生においてどうしたって避けようの無い問題になるであろうと、確信をもって言える。

 これからの命題にしよう。

台所に立ち、材料を切り、炒め、もしくは茹で、もしくは焙り、味を付け、食感を想像し、喉越しを想定し、彩りを夢想し、バランスを調節する。

 脇でくるくると甲斐甲斐しく働く慎にふと

「臓硯さんてかっこいいよな」

 後ろで間抜けな悲鳴と次いでびたんと、例えれば顔面から床にぶつかったような音が聞こえてきた。そして、気の毒そうな声音で

「―――――ロンドンの料理ってそんなに不味かったの」

「どういう文脈だよ」

「舌と一緒に頭にまで逝かれたのかと思った。それにしても御爺様に対してもっとも似合わない形容詞だと思うね、かっこいいっていうのは」

「そうか?俺はかっこいいと思うけどなぁ。五百年だぞ、五百年。それだけの間たった一つの目的のために行動し続けるなんて、かっこいいじゃないか」

 少なくとも二人、諦めた男を知っている俺からすれば彼は十二分に格好いい男である。

 しかし、慎はいかにも不思議そうに

「でも、それも間桐の再興なんて利己的なものじゃない。衛宮ってそういうの嫌いじゃなかったっけ」

「うん?それは建前で本当はあー、あれだ。全人類を天国に連れていくことらしいぞ」

「全人類抹殺計画か……スケールが大きいね」

「違う違う。この世、全ての悪の廃絶だよ。要するに天国みたいな世の中にするってことだろ。聞いてないのか」

「初耳。ふぅん。確かにそれは衛宮好みだね」

「だろ?ニュアンスは違うけど正義の味方に通じるものがある」

「正義の味方か。衛宮だって諦める気はないんでしょ、それは」

「どうだろうな、今は諦める気はないけどその内―――」

あの赤い男を思い浮かべていささか自虐的に、出来るだけ慎を見ないように

「―――摩耗するかもな」

「摩耗?変な言い回しだね。けど、衛宮にはピッタリだ」

「お前は俺にどういうイメージを持っているんだ?」

「カッターナイフ」

「そのこころは」

「自分の身を削ってでも仕事をする」

「なるほど」

「もしくは安っぽい」

「怒るぞ」

―――午後零時 冬木市 穂群原学園 弓道場

「士郎、遅いよぅ。お姉ちゃん、朝からお水しか飲んでないよう」

 素直な虎であった。

 俺から奪い取った弁当を流し込むようにかきこんでくーっと茶を飲んでけふっと一息つく。もう少し味わえよ、と言いたくなる一方、そこまで旨そうな顔をされるとこちらも満更ではない。遠坂はもう慣れたのか、黙々と食うだけでいまいち不満であったのだ。

 それにしても一一癒されるのがこの虎相手というのは、もしかして俺は今だに姉離れできていないのだろうか。

 しかし俺が居た頃は部活に顔など出さない幽霊顧問であったのに、

「たまに顔出しとかないと忘れられちゃうしねー」

「いやぁ、無理だろ」

「だといいんだけどね」

「大丈夫ですよ。タイガーの事は忘れようと思って忘れられるものではありません」

「私を虎と呼ぶな!ってなんで慎ちゃんがそれを」

「衛宮が言ってました。私は無実です」

「士郎ー!」

「冤罪を主張します!」

 俺に食ってかかろうとした藤ねえは直前で勢いを殺しそのまま、くるぅりと慎の方を振り返り首をかしげながら

「慎ちゃん、今士郎のこと衛宮って呼び捨てにしたよね」

「ええ」

「あと一人称が私になってたよね」

「ええ」

「――――ふぃーん。士郎ってば仲直りしただけじゃなくて仲良しさんになったんだね」

 うむうむと、満足げに頷いた藤ねえは俺たちを交互に見比べながら最終的に慎に視線を固定して

「昨日の、慎ちゃんが士郎と買った諸々、私がもらっちゃってもいい?」

「ダメです。返して下さい」

「―――んふ」

 楽しそうだな、虎。

「士郎のエロ学派」

「冤罪だって」

 にやにやと俺たちを見ながら藤ねえが弁当食い終わって食後の茶を満喫しているところで慎が、そういえばという風に

「慎二から連絡がありました」

「ええ?!何時!?何所から!?今どこにいるの!?」

「そういったことは一切言わずに只、生きてるとだけ」

「……それ、本当に慎二君?」

「これでも姉弟ですから。わかりますよ」

「ん、ま、慎ちゃんがそういうならそうなんだろうけど。次連絡あったら色々確認しといてね」

「はい」

 聊か腑に落ちないところはあるようだがそれでもほっとし表情を浮かべる藤ねえ。

 果たして慎はどういう心持であのような事をいったのか。

 しばらく考えてみてはたと、慎自身が自分の中にいる慎二のことをようやっと認めたということではないかと思いいたった。この推測はそう大きく的をはずしてはいないと思うが、直接確認するまでもないだろう。

 命題についての考察をここでしてみようかと思う。

 異性間の友情は成立しうるのかどうか。

 友情とはつまり相手を信頼することである。

 口の悪いものは「凪の時何人でも乗れるが嵐になると定員1名となる船」なんていうらしいが少なくとも俺はそうは思わない。

 そのような意味では異性間においても同性間についても友情というのは等価値であるはずであり、ならば、男女の別によらず万人と友情は成立するはずである。

 以上、考察中断。

「さて、と」

 右に五つ左に四つ、袋を提げて鍵をかけ慎とともに間桐邸に向かう。

「ところでね、衛宮」

「なんだ」

「昨日のあれ、愛してるってやつ」

「うん」

「引っ込める気はないよ」

 やばいやばい、非常にやばい。

 俺の身もやばいがそれ以上に慎の身がやばい。

 こいつ、半年前に死にかけたことを覚えてないのか。

「だから、俺は遠坂一筋だと何度言えば」

「衛宮の自由意思は知らない。私が満足するようにするの」

「……その傲慢さを桜の前で出せたら考えても良い」

「……ひぃ」

 無理そうだった。

 まあしかし、桜も強くなったというか黒くなったというか、少なくとも俺がロンドンにいる間に大分変わったようなので、今はあまり無責任な事も言えない。昨日の様子では積極的に害をなすとは考えにくいが、ここまでのトラウマを植え付けるだけの体験もあったのだろう。

 桜の言を借りれば、慎を壊さないために。

 悪意の加害者か。

 善意の加害者か。

 どちらにしろ被害者が一人、眼の前に。

ふと、昨日扉越しに慎に言われたことを思い出す。

 ―――私は桜を犯さない

つまり、慎二よ。お前も加害者か。

兄弟だの姉妹だの。知ってしまえば空々しい関係だ。

誰が誰に何をしたか。誰が誰を憎んでいるのか。誰が誰を好いているのか。

俺は何も、知らない。

世界は広く、暗く、手元も足元もおぼつかない。

だが――――

慎はしばらく震えた後に拳をぐっと握りしめ、俺の方を振り返り

「ちょっと付き合って」

 だが、それでも、きっと全ては上手くいく。

 多分に無責任ではあるが、俺は家族というものを、そこまで脆いものだとは考えない。

 

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