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 藤ねえについて道場に入る。

 なんだろうな。

「士郎、あのね、その、落ち付いて聞いてね」

 何やら言いにくそうに、柄に合わずに深刻そうに、藤ねえは一大決心の様に

「今―――慎二君行方不明なの」

 ああ、そういえばそういう設定だったな。

 そうか、それで桜たちが居ては話づらいだろうとわざわざこんな所に。

 本当に藤ねえは変わらないな。

 もう俺達は既に学園の生徒じゃないのに、多分藤ねえの中じゃ卒業生と在校生の区別なんてないんだろうな。受け持ったら、知りあったら、覚悟を決めるしかない。いつだって帰る場所になるつもりなんだろうな。相手がどう思おうと。

 本当に根っから教師なんだよな、これで。

「あんまり、驚かないね」

「昨日慎―――さんに直接聞いたから」

「あ、そっか。先にそっち行ったんだもんね。ね、慎二君、士郎に何か連絡とか取ってない?親友だったんでしょ」

「俺は現在進行形で親友のつもりだけどな。残念ながらないな。大丈夫、あれで慎二もしっかりしてるからさ、何所かで元気にやってるさ」

 その、具体的には家の台所とか。

「むー、少しは心配とかしないの?薄情だなぁ、お姉ちゃん士郎をそんな子に育てた覚えはありませんよ?」

「信頼してるんだよ」

 真相を話せないのは当然として、下手につくろえば直感で見抜かれそうなのでお茶に濁す。藤ねえはむーむー唸っていたがやがてがおーっと咆哮をあげた。

「士郎!剣を取れーっ!!」

「なんでさ」

「なんでも!私一人でいつ言おうかなとか、言っていいのかなとか悩んでたのに!まるっきり無駄じゃん!剣を取れ!その薄情な性根を八つ当たり気味に打ちなおしてくれるわ!」

 しぶしぶながら竹刀をもつ。

 しかし、そうか。

 俺以外にも慎二を案じる人間がいたのか

 それは大分、嬉しいな。

 うん、やっぱり慎二はなんとか男に戻そう。

 自分の中で納得して竹刀を渡す。

 そして自分では二本持つ。

「あれあれ?なに、士郎ってばロンドンに行って宮本武蔵にかぶれてきたの?」

「そういう訳じゃないけど、合ってるんだよ」

 サイズが大分違うので少々感覚は違うが。

 二天一流にしてもあれは大刀小刀でやるもんだしな。

 こちらも竹刀を構えた藤ねえに防具は着けないのかと言いかけて、そういえばセイバーの腕を試すとき防具はおろか無手の相手に打ちかかっていたのを思い出す。確か昇段試験では精神面も審査の対象になると聞いた気がするがよく通ったものだ。

 やはり教師には向いてないのかもしれない。

 でまぁ、やり合った訳だが、結果は昨日のセイバーよりはマシという程度。正直ぼこぼこにやられた。剣道五段は伊達じゃない。いいもん。俺は魔術師だもん。アーチャーのは、あれ、剣道じゃないもん。

「うむ、すっきり」

「よかったな、こんちくしょう」

 

「衛宮さん……何してたんですか」

「教育的指導!」

「愛が足りないぜ」

「それは私んだ!返せ!」

 なんのことやら。

 痛む体に甲斐甲斐しく慎二が手当てを施してくれる。

 桜は、それをにこにこと見ているだけ。

 なんだ。もしかして桜はこの状況をものすごく喜んでるのか。

 そういや、昨日も妙に楽しそうだったしなぁ。

 もしや最大の障害は桜か。うむ、どうしたものか。

とりあえず当面の目的を果たしておくか。

「じゃあ、俺はちょっと出かけるけど。どうする?」

「教師に休みはない!いまから学校いってくる」

「私は家にもどって御爺様にお食事を」

「僕は衛宮さんについていきます」

 三者三様。

 十人十色。

 家出て鍵かけて向かうはお山の柳洞寺。

 山門まで来てふと、あの戦争の最後を思い出す。

「慎二、大丈夫か」

「なにが?」

「いや、大丈夫ならいい」

 キョトンとした顔の慎二にこの場所に対する忌避感は見えない。

 そんなもんなのかな。あれから数年。少なくとも学校から知り合いがいなくなるくらいには前の話だ。

 ここで死にかけたし

 殺したし

 助けたし

 助けられたし

 二度と会いたくない奴もいたし

 もう一度会いたい奴もいたし

 助けられなかった相手もいる。

 俺は、この街にいくつ未練があるんだろう。

 さて、

「例の大空洞ってどこから入ればいいんだ?」

「んと、脇の林のどこか」

「曖昧だな」

 むちゃ広いです。

「御爺様に聞けばすぐなんだろうけどその……最近ボケが……」

「ああ……」

 時の流れの残酷さがここにも。

 仕方ない。脇の林に入ってしゃがみこみ

「―――同調開始」

 円蔵山の表層だけを解析する。

 おそらくは一般人が偶然入れないようにそれなりに誤魔化しているんだろうが、そういうものは俺にとっては逆に分かりやすい。

「―――む」

 とりあえず、入口は見つかった。

 さて、とりあえず聖杯起動式までの道でも確認しておくか。

 下見と言っても俺一人じゃその程度が関の山。情けない。

 というかなぁ、結局俺ができることって一点突破過ぎるんだよなぁ。

 逆に遠坂は万能型でここぞという時以外は一人で何でもできる。釣り合い取れてないのかな、もしかして。いやいや、あいつのうっかりを許容できるのは俺以外にいまい。

「衛宮?見つかった?」

「ああ、これから入ってみるけどお前はどうする?待ってるか」

「いや、ついていく」

 入口は存外に狭く人が一人通るのがやっとだったが、内側に入ってしまえば異様に広く手持ちのペンライトでは向こう側が照らしきれない。下手に分岐していると遭難仕掛けないのでまずは再び解析を行い空洞の立体地図を頭の中に構成する。分岐はいくつかあるもののその先はほどなく行き止まりになるばかり。主道をしばらく行ったところにいかにもと言った感じに開けた場所があった。ちょうど柳洞寺の池の真下辺り。ここら辺が柳洞寺の伝承の正体かもな。一成には言えないけど。

「さて、と。はぐれるなよ?」

「子供じゃないぞ」

「じゃあ袖を放してくれないかな。歩きにくい」

「やだ」

 なんだかなぁ。

 藤ねえに吊られて慎二も退行しだしたか。

 歩くうち、最奥に近づくにつれ更に体を密着させてくる。

 うむ。遠坂では決して味わえないこの距離とこの感触。

 スポンジは永遠に俺の物。

「というか、本当に歩きにくいんだが」

「いいじゃないの、シロウはこういうの嫌い?」

 大歓迎ですがね?

 それにしてもその顔でその発音はやめてくれないかな。

 色々思い出す。

 やがて、さらに広げたドームのような突き当りに到着した。中央は祭壇の様に盛り上がり周囲からは少し見上げるほどの高さになっている。見た目に不自然なところはないが、違和感は、ある。

いつかの学校の様に。鮮血神殿の基点を見つけた時のような違和感がある。それに何より、あの時の黒い太陽の残り香が。

間違いない。ここに聖杯の起動式が。

慎二はようやくといった感じで俺から離れ祭壇をじっと目を細めて見ている。

その横顔は間桐の家でみた卑屈なものでも家で見たような楽しげなものでもなく

―――どこか神聖な感じすら受ける

「―――慎二?」

「シロウのにぶちん」

 言って慎二は手を後ろで組み少し体を前傾させ見上げるように俺を覗き込む。

「イ―――」

「どうしたの、溶けた鉛でも飲みこんだような顔して。嬉しくないの?」

「イリ――――」

「私は結構嬉しいんだけどな」

「イリヤ―――――――――――――――!」

 慎二は

 少女は

 姉は

 俺が見殺しにした彼女は

イリヤは

 にこりと笑って

「ひさしぶりね、シロウ」

 ただ再会を喜ぶように言った

Interlude in

 

「桜、一つ聞きたいことがあるのですがいいですか」

「なに?ライダー」

「桜は慎をこの先どうしたいのですか?」

「よく、わからないわね」

「では、分かりやすく。もう貴方の復讐は終わりましたか。慎の中の慎二を殺し曖昧になった臓硯を生かし続け、あなたの復讐は終わりましたか」

「よく、分からないわね」

「―――桜、あなたは何を望むのですか」

「――――よく、分からないわね」

「――――そうですか」

「ああ、でもねライダー、まだ兄さんは生きているわよ。姉さんがどれだけ言ってもどれだけ責めても決してやめないあの一人称。アレが最後の一葉。アレが落ちた時が兄さんが死ぬときよ」

「桜は、落とす気はないのですか」

「あら、私がそんなに残酷に見えるの?それにそれは先輩の役目だもの。兄さんの幕を引くのは、それは先輩の役目よ。ライダー、人のものはね取っちゃだめなんだよ」

「―――そう、ですか」

「ええ」

 

Interlude out

――――午前十一時 柳洞寺地下 大空洞

「ここはね、色々と近い場所だからね。今だけは私が浮いてきたみたい」

 イリヤは慎二の声と顔でそんな事を言う。

「大聖杯、根源の渦、ユスティーツァ・リズライヒ・フォン・アインツベルン―――それに、お母様」

 少しばかり寂しそうにつぶやく。

 構成は変わらずとも印象はこうまで変わるものなのか

 今目の前にいるのは、確かにあのイリヤだ。

「慎二は、どうした」

「別に消えたわけじゃないわよ?私が浮いてきたのと彼女が内に沈みたがったからたまたまよ。ね、シロウ、これだけは言っておくね。私はシロウを怨むつもりはないし、シロウは私を怨んでいいんだよ」

「何で俺がお前を」

「だって、シロウのお友達こんなにしちゃったし……」

 しゅんと萎れるイリヤ。

「いや、いいさ。わざとじゃないんだろ?」

「それはそうだけど」

「今の状況は全然お前のせいじゃないんだから気にするなよ」

「―――うん、ありがとう。シロウはやっぱりいい子だね」

 イリヤぱっと笑って俺の頭をすりすりと撫でてくる。

 そりゃあ一応あなたが姉ですがね。

 ちょっと複雑。

 おっと、そうだ。今のうちに聞きたいことを聞いておかないと

「イリヤ、慎二を元には戻せないのか」

 ぴたりと手を止め少し考え込んでから

「どうかな、それ。それで誰か喜ぶの?」

「そんなの―――」

「シロウ、人間の三要素って分かる?」

「―――肉体と精神と魂、だろ」

「そ。ここで問題なのはそれがそろってこその人間だってこと。肉体がないからゴーストは希薄だし精神がないから機械は感じないし魂がないから人形は動かない。で、ね。今の彼女にはそれがそろってると思うの」

「そろってるじゃないか」

 だって慎二はちゃんと―――

 ちゃんと?

 どこがだ。

 あんな奴―――慎二じゃ、ない。

「あのね、シロウ。二十年近くかけて構築した間桐慎二の精神を半年で再構成した間桐慎の精神で代用できると思うの?今だってぎりぎりなのに。ここから戻したらどうなるか、私は知らないよ?」

イリヤはできの悪い弟に言うように実にはっきりと言ってくれた。

どうしようもなくはっきりと

慎二は死んだ、と 

「今、起動式の中に溜っている七十余年分のこの地の魔力の補助を借りれば、もしかしたら、上手くいけば、奇跡が三つ位重なれば、残りの人生と来世とその次の運を使いきる気で行けば、そうね。第三の真似ごと位はできるかも、ね」

「望みは捨てろってことか」

「そりゃあ純粋に聖杯なのは心臓だけなんだし。あんまり期待しないでよ」

 イリヤは適当な岩に腰かけて俺の方を見ずに祭壇を眺めながら、慎二を元に戻す方法の話をしてくれた。

「それで出来るのもサーヴァントの霊核みたいなものだけだから、入れ物はシロウとリンで都合付けてね。私はそれくらいしかできないよ」

「協力してくれるか」

「責任は感じてるし、それにさっきの話を聞いてもまだ、シロウは彼女を元に戻したいんでしょ?だったら協力するに決まってるじゃない。私はシロウのお姉ちゃんだよ」

「ありがとう」

「いいよ、お礼なんて」

 イリヤは岩からひょいと降りて俺の方に向き直った。

 今の慎二の体は俺の肩の位置位。

 自然見上げるように俺をむっと睨みつけながら

「それにしても、残念。この身体ならちゃんとシロウのお姉ちゃんにみえると思ったのに。シロウってば何を勝手に大きくなってるのよ。まるで色違いのアーチャーじゃない」

「そんなこと言われてもな」

「屈みなさい」

「こうか?」

 膝を折り曲げ目線をイリヤに合わせる。

 だがまだ気に入らないのか、「もっと」と言われる。

 胸に目線が合うまでかがんだところでいきなり、抱きしめられた。

 暗い、苦しい、気持ちいい。

 スポンジかマシュマロか麩に顔をうずめているようだ。

 ああ、日本にはヘブンがいっぱいだ。

「えへへ、シロウ、シロウ、シーロウ。うん、また会えて嬉しいよ、凄く嬉しい。もしかしたら私がこうやってシロウにまた会って抱き締めたかったからこうなっちゃったのかもね」

「ああ、イリヤ、俺もまた会えて嬉しいよ」

 言うとさらに腕に力が込められる。

 とくんとくんと

 確かに脈を打つ心臓が、慎二の内に確かにあるイリヤの息吹が肌を通して伝わってくる。

 本当に嬉しいよ、イリヤ。

 俺に謝る機会をくれて。

 少し体に力を入れ拘束を逃れ、少し不満そうなイリヤに頭を下げる。

 キョトンとした顔のイリヤに今まで溜めていたものを吐き出す。

「すまなかった、助けてやれなくて。ずっと謝りたかったんだ。俺はあの時何もできなかった。見ているだけしかできなかった。イリヤ本当に、すまない」

「ん、許す、許します。お姉ちゃんはシロウを許してあげましょう」

「――――ありがとう、イリヤ」

 顔を上げイリヤと向かい合うと入谷はあごに指を当てこちら流し眼をよこしながらにやりとわらって、

「お礼は、キスがいいかな」

「それはちょっと。俺は遠坂に操を捧げてるんだ」

「シロウのケチ。ロンドンじゃ挨拶じゃないの」

「俺は日本人だからな。遠坂も人前でやるとすごい嫌がるし」

「ふうん、リンとは上手くやってるの」

「順調そのものだ――――ごめん嘘。遠坂の知り合いが最近ちょっと……」

「シロウは無意識に惚れられるからね。がんばりなさい、応援しててあげる」

「―――がんばります」

――――午後零時 冬木市 新都

 イリヤと更にしばらく話しこんだ後大空洞を出て新都に向かう。

 大空洞から出た時点で二人は元に戻った。

 慎二にしろイリヤにしろ、どちらが表にでていてもそれなりに記憶の継続はあるようで時間の経過に特に疑問を持つことはないようだ。中での会話は、概ね聞いていたらしい。

 で、行き帰りとイリヤがべったりだったことをどう思ったのか、しばらく考え込んだ後によし、と小さくつぶやいてから。

「衛宮、デートしようよ」

「なんでさ」

 まあ、どうせ大空洞の地図を描くのに大きめの紙を買う必要はあるし、ついでに新都に行くのも悪くないと、話に乗る。

 ゲームセンターに行き喫茶店で軽く昼食を取り慎二のショッピングに付き合い、

 デートというか単に一緒に遊んだというか。

 そこに恋愛感情が挟まれるからデートなのであって。

 俺は異性間にも友情は存在するという可能性を信じます。

 信じさせて。プリーズ。

 しかし、なんというか、イリヤとの話を含めて先入観なしで今の慎二をみれば、うん、女の子、何だよなぁ。あれはもう、別人。慎二の記憶を受け継いだだけのまだ二度会っただけの只の他人だ。

「衛宮、次はどこ行こうか」

「―――楽しそうだな、最近来てなかったのか」

「え?ええと、そんなことはないけど、うん、衛宮がいるから、かもね」

 はにかみ少しばつが悪そうに、それでも、喜びを隠しきれていない少女。

そのあまりにも楽しげな少女に、少しばかりの怒りと、認めたくはないが、殺意を、覚えた。

 無論筋違いではある。

恨むべきはイリヤであり桜でありライダーであるべきなのだろう。

 だが、俺が最も憎いのは親友の皮を内側から食い破った見知らぬ他人。

 素体が慎二であろうと俺は彼女をまだ認めることはできない。

 間桐慎。

 お前は誰だ。

「―――衛宮?」

 少しばかり声にこちらを案ずる調子を乗せて少女が俺の名を呼ぶ。

「なんだ?」

「どうしたの?顔、怖いよ」

「む、すまん。色々考えてた」

「そうなの?」

「ああ」

 ふーんと、首を傾げながら俺の前を歩く少女。

 どうしようもない、な。俺はまったく何を考えているんだ。

 埒もない。

 アレは少々見た目が変わったが確かに慎二だ。

 そうだとも。 

 俺の親友はまだ、死んじゃいない。

 なあ、イリヤ。そうだろう?

「ね、衛宮少しは魔術の腕上がったの?」

 慎二は明日の天気でも話す気軽さでその話題に触れてきた。

「どうなんだろうな、まあ、山の解析ができるようになったんだから少しは上がったのかもな。日本にいた頃はガラクタばっかり解析してたから比べるのもおかしい気もするけどな」

「ふぅん。がんばってるんだね。えらいえらい」

「―――」

「どうしたの、急に黙って。あ、もしかして僕買いすぎた?少し持とうか」

「いや、そうじゃなくて、な」

 慎二はなんで俺の魔術をそう素直に褒めてくれるんだろう。

 それは慎二が最も触れたくない部分では―――

 そして、慎二は、慎は、見知らぬ少女は、それと気づかずに決して言ってはならないことを口にした。

「魔術師、か。僕は何でそんな物に成りたかったんだろ。なれないものはなれないのに。あーあ、まるきりバカみたいだよね。衛宮」

「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――誰だ」

「え?」

 性別が変わった。それはいい。

「お前は、誰だ」

 容姿が変わった。それはいい。

「衛、宮……?」

 性格が変わった。それはいい。

「お前は」

 だが

「お前は――――誰だ」

 それを

「お前は――――――――――」

親友の

「お前は慎二じゃ――――――――――ない」

 間桐慎二の根幹を否定するな。

少女は息を飲み、体を強張らせ、眼を潤ませ、顔を歪ませ、唇を震わせ、まるで、どこかの小説で主人公が定めた最後の一葉が落ちたかのように、それが最期だと決めていた葉が落ちたように、まるで今死んで今生まれたようににこりとほほ笑み

「そうだよ、そんな人間もうどこにもいない」

「な、に、を―――――――――」

「私は――――慎」

 唇を塞がれた。

 長く短く、包むように押し広げるように、吸うように吐くように、吹き込むように吸い出すように、唇を重ねられた。

 そして離れた少女は俺の眼をまっすぐに見つめその銀の髪を風になびかせその赤い瞳に俺を映し、

「衛宮、大好き。愛してる」

 言って、それからくしゃりとこんどこそ顔を崩して

「バイバイ、衛宮」

 そのまま、別れた

 

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