―――半年後 午前十一時 冬木市

 ごきごきと体を鳴らして久しぶりの日本の空気を吸う。やはりエコノミーは人間を空輸するにはきついな。なんて埒もないことを考えながら近くの公衆電話から電話をかける。

 しばらくコール音が続く。まさか、死んではいないと思うが番号は間違えたかもしれないと少し焦ったところで

『は、はい。間桐です…』

「もしもし?慎二、今着いた」

俺の声に答える慎二の声はしかし何故か泣きじゃくる幼児のようなものだった。

『衛、宮…?衛宮、衛宮ぁ』

「おいおい、何がどうした。情けない声出して」

『う……うああ、うえええ。衛宮ぁ、早く、はや―――ご、ごめ、桜。ゴメンナサイゴメンナサイ。―――ひぃ』

「もしもーし?おい、慎二?」

 ぶつりときられた電話をしばらく見つめていたがとりあえずは間桐の家に向かうことにしてタクシー乗り場にむかって歩きだす。

「お帰りなさい。先輩」

 出迎えてくれたのは慎二ではなく桜だった。その微笑みを見ながら、半年前ロンドンで慎二と交わした会話をふと思い出したが、うん、やっぱり桜は良い子だ。あれはきっと慎二の被害妄想か何かだろう。

「ただいま。遠坂は三日後にくるよ。別々に来ることになったのはいつものうっかりだ」

「本当に、お久しぶりですね。便りがないのは元気な証拠とはいえ、あまりにもなさすぎですよ」

「そう頻繁に手紙に書くような話題もないしな。それより慎二はどうしてる?さっき電話口でえらくおびえてたようだけど」

 その言葉に桜は困ったように眼を伏せ、

「まだ半年ですからね。時々変なことを口走るんです」

「前会った時はそうでも―――ああ、いや、確かに妙なことは言っていたな」

「どんなことですか」

「ん?ま、要約すると子供を欲しがってた。見た目は落ち着いてたけどあれはあれで錯乱していたんだろうな」

「ふふ、姉さん、そんな事を。へぇ、子供を、へぇ…」

 おやおや?何か一瞬影がうねったような気がしたけれど、うん、きっと見間違いさ。そう、俺はきっと失言なんてしてないさ。遠坂じゃあるまいし。でも―――ごめんな、慎二。と心の中で懺悔してから、

「とりあえず、今回は俺が先に来て下見を済ませておくことになってるから―――て桜?」

「はい?なんですか」

「姉さんて慎二のことか?」

「そうですけど」

 きょとんとして「それがなにか?」て言う感じの桜に

「んー、嫌がらないのか?」

「最初は。今はもう気にしませんね。―――いい加減出てきたらどうですか、姉さん」

 言われて扉の陰から出て、来たのは―――慎二、うん、慎二だと、思う…けど。

「――――衛宮、その…お帰り、なさい」

「あー、その、慎二?うん、なんといったものか、ええと、その格好は?」

 たぶん突っ込んじゃいけないんだろうけど、突っ込まずにはいられないな。なんだろう。あの格好は。俺の貧相なボキャブラリーにアレを表現する単語はない。あえていうならば――――進行していた。

おれの問いかけに対して慎二はひざ丈のスカートをギュッと握って顔をぶんぶん振りながらなんだか涙もにじませて、

「う、うううぅ」

「いや、言いたくないならいい―――ただいま、慎二」

「お、お帰り!」

 そう、ぱあっと顔を輝かせていう慎二はなんていうかこう、うん、すごく馴染んでいた。

「何でそんなに嬉しそうなんだ?……なぁ、慎二」

「何かな、衛宮」

「半年は、長かったな」

「あ、その、うん……長かった」

 はて?おや?あれれ?多分だけれど俺と慎二の間で「長かった」の意味が絶妙にかみ合ってない気がするぞ?ふふふ、これもきっと気のせいさ。

「とりあえず言わせてくれ。―――似合ってるぞ」

「え、え?そうかな、うわぁ……やったぁ」

「良かったですね、姉さん。だからあんなに嫌がることはないと言ったのに」

「頼むから素直に喜ばないでくれ。居た堪れない、主に俺が」

 空を見上げて思うことは、出来れば反論してほしかったということとあと一つ、イリヤ、俺のこと恨んじゃいないが怒ってるだろ?お願いですから、親友を返して下さい。

その日の空は、抜けるほどに青かった。

 

――――午後一時 冬木市 間桐邸 客間

 机を挟んで慎二と桜と対面する形で席に着く。

 なんで、慎二はこんなにそわそわしているんだろう。

「え、えと、衛宮。遠坂は?」

「三日後にくるよ、ってこれはもうさっき聞いたろ?」

「あ、そうだっけ……」

 あーもう、畜生。

 可愛いな、おい。

「髪伸びたな、鬱陶しくないのか。それ」

「え―――あ、れ。そそそその、ゴ、ゴメンナサイ!?ににに似合わないかな?!」

「あっと、いや、似合ってるとは思うけど……」

 おいおい。誰だ、こいつ。

 本当に時間て奴は残酷だなぁ。

 泣いて何かないやい。

 親友の変わり果てた姿に思わず目頭を押さえながら上を向く。

 目には怯え。

 身体には恐怖。

 思考には矯正。

 今の慎二に、髪が伸び、雰囲気も女性的になり半年前よりも更に彼女に近づいた慎二に、あの時の様に彼女の姿が欠片もダブラないのは多分、そのせいだろう。彼女は、こんなには弱くなかったし、慎二も、ここまで卑屈ではなかった。

 誰だよ、お前。

「さて、先輩。先に下見をしておくと言っていましたが、これから直ぐに?」

「いや、家に荷物置いて藤ねえに挨拶して、多分勢い宴会になるだろうから、明日かな」

「そうですか、では姉さん。先輩のお手伝いとか、出来ますよね」

「あ、はい」

「―――慎二、なんで桜に敬語なんだ」

「だ、だって」

「わかったわかった。聞いて悪かった」

 ああ、もう。どうしたもんかな。これ。

 現状を受け入れのはいいとしてもこれじゃああんまりだ。

 やはり慎二は何としてでも男に戻った方がいい。

 肩をがしり、とは位置的に無理だったので、まっすぐに慎二の眼を見て

「慎二、俺が必ず男に戻してやるからな。諦めるな」

「え、え?えっとこのままでも、僕は、いいん、だけ……ど」

「そんな消極的でどうする。諦めるな。なんとかしてやる」

「え、えぇと、さ、桜、どうしよう……」

「いいんじゃないですか?それはそれで」

 にっこりと、笑う桜に慎二は

「ううぅ……」

 と、うなだれるだけだった。

 半年ほどで、間桐邸の力関係は完璧に逆転してしまったようだ。

「そういえばライダーは?」

 騎英のサーヴァント、ライダー。

 本来、聖杯という規格外の魔力源があってこそ成し得る例外的な使い魔である彼女は戦争が終わり、聖杯が消滅した時点で消滅するはずだったのだが、胸の内に収められた心臓の影響か、はたまた、仮にも根源につながりかけた影響か、とにかく使えるかどうかは別にして規格外の魔力が慎二に流れ出したことで現界し続けている。

 マスターである慎二を蛇蠍の如く毛嫌い、というかあからさまに見下してその慎二の妹である桜には逆に忠実というなんだかわからないサーヴァントである。

「最近アルバイトを始めまして、昼はそっちに」

 英霊なのに?

 順応性が高すぎる。

しかし、

 慎二、桜、ライダー。

 間桐邸にはたわわに六つ。

 うん。

 ここがヘブンか。

 ゴッドブレスミー。

 おおゴッド。ロンドンに帰ったらミサには欠かさず出るようにします。

 ごめんな、遠坂。

 

―――午後三時 冬木市 藤村組

「士朗ー。お姉ちゃん寂しかったよー」
「藤ねえ、久し振り。あと抱きつくな。―――痛いな、何で蹴るんだよ」
「うううう!」

 がしがしと。

 なんでか涙目になりながら俺の脚を蹴り続ける慎二。

 藤ねえ相手にこれだと遠坂が来たら俺蹴り殺されるんじゃないのか、もしかして。

 そういえば、今の慎二は藤ねえと面識はあるのだろうか。

 相手は仮にも一般人。

 何かしら身分を偽っているとしたら迂闊に喋れないな。

「あれ、慎ちゃん?どうしたの」

「桜さんから衛宮さんを手伝うように言われまして」

 慎ちゃん?

 桜さん?

 衛宮さん?

 やめてくれ、俺は一度死んだら生き返れないんだ。俺はバーサーカーじゃないんだ。

 すでにメンタル面ではオーバーキル。

 やばい、精神に肉体が引っ張られる。

 ふふ、アーチャー。お前にだってここまでの試練はなかっただろう。

「し、士郎?なんでそんなに打ちひしがれてるの?!」

「いや……本当に、半年は長すぎたなって思ってな」

 その後やはりというか雷画爺さんと藤ねえの仕切りで宴会が始まった。

 俺は主賓ということで無理やり座らされる。

 正直意外だったのは慎二が藤ねえだけでなく藤村組自体に受け入れられていたこと。なんでも留守中衛宮邸の管理をほぼ放棄していた藤村組の代わりに願い出てそのままなにくれとなく関わるようになったのだとか。聞けば、街に知り合いも多く、むしろ深山町全体に認知されているらしい。

 というかそれよりも慎二が自分から宴会の食事の手伝いなどを申し出たことの方が驚きだった。あの慎二が、自発的に!更生したと見てもいいのだろうが、だがしかし。

 知人が真人間になることがこんなにも涙を誘うものだとは。

 あれ、俺今喜んでいいんだよな?

 あの慎二が男女の区別なく受け入れられ、本人もあの無暗に敵を作るような性格を改めている。うん、冷静に考えれば、喜ばしいことなんだろうけど、だけど。

 くそ、俺の涙線は何でこう今日に限ってこうも緩いんだ。

 一挙手一投足が一々不憫でならない。

「衛宮?どうしたんだ、顔色悪いぞ」

「いや、別に。そういや、さっきのあれ、名前なんだけど」

「あれは、その、そのまま説明するわけにもいかないから、一応慎二の姉ってことで慎って名乗ってる。家の都合でよそに居たのを慎二が行方不明になって残された妹が心配でやってきた、みたいな」

「姉って……人種からして違うだろ」

 白というよりは銀に近い髪。

 赤というよりは真紅に近い眼。

 文字通り透きとおるほど色素の薄い肌。

 ひいき目に見ても西欧圏内。

 いや、極端な話、こんな配色の人種は存在しない。

 アインツベルンのホムンクルス。

 設定されたリミットは疾うに過ぎたはずの心臓。

 慎二。

 お前、まだ死ぬなよ。

「まあ、ほら、土地柄外人には寛容だから、先祖返りってことで、ね」

「そうか。いや、まあ受け入れられてるんなら俺から言うことは無いけどさ」

 本当に受け入れられているなら、むしろ受け入れられているほどに、加速度的にくじけそうになる。これ、男に戻ったら戻ったで別の問題が発生しそうだな。

「士郎ぅ、慎ちゃんとばっかり話してないでお姉ちゃんにもかまってよう」

「うん、藤ねえだけはそのままでいてくれて、本当に安らぐよ」

「うううう!!」

 痛い痛い。

 つねるなよ。

 

―――午後十一時 冬木市 

 宴会も引けて、慎二を家まで送り別れ、家に帰る。

 半年振りの我が家に向かいながら、あすからの予定を考える。

 遠坂が来るまでに下見を終え、合流して聖杯起動式の解体、解析、解明。

 至る道への道程の模索。

 内密に。

 迅速に。

 かつ、確実に。

 正直俺には根源への興味はないが、その過程での副産物が欲しい。

 アインツベルンがかつて有した第三魔法。

 魂の物質化。

 千年前に失伝し千年かけて取り戻そうとする現代でなしえない数少ない魔法の一つ。

 聖杯戦争自体がそこに戻る道であるそうだ。

 遠坂曰く、慎二を男に戻すにはこれを会得するほかないのだとか。

 変身では姿を偽るだけで継続するのは難しい。

 故に体を作りかえる。もしくは同位体を構築して移し替える。

 どちらにしろ、どんなイカサマを使っても魔法使いになるしかない。

「というか、それは実質上匙を投げてるんじゃないのか」

 唯一希望材料なのは本来の聖杯の器であるイリヤの意識が慎二の内にあるということか。

 意思疎通も図れているようだし、上手くすれば、何とかできるか―――

 それはそれで遠坂が逆上しそうだが。

 遠坂が目指すのは大師父、キシュアゼルレッチの第二魔法。

 そりゃあ、慎二に先を越されれば、しかもその手伝いをしようとするなら憤りもしよう。

 実際、遠坂が今回遅れたのもその説得に手間取ったせいでもある。

「うーむ、難しいな」

「なにがですか」

 唐突に俺の目の前に現れたの、ライダーだった。

 黒のタートルネックにタイトなパンツ姿。

 魔眼殺しも特に問題はないようだ。

「久し振り、ライダー。バイト始めたんだって?」

「ええ、只飯喰らいでは桜に申し訳が立ちませんので」

「桜に、ね。相変わらずだな。慎二のことも少しは認めてやれよ」

「今の彼女ならともかくかつての彼は只の屑ですから」

「手厳しいな、あれでもいいとこあったんだぞ。まあ、見えにくいというか紛らわしかったけど」

「シロウは思うに、身内に甘すぎるのですよ」

「そうかな?俺、怒るときは怒るぞ」

「ま、いいですけどね。―――桜からの伝言です」

「桜から?さっき家に寄ったんだけどな」

「直接は言いにくかったんでしょう。あれで、あなたに未練もあるようですし」

「その類の伝言なら直接言うように桜に返してくれないか」

「―――半年遅い」

「――――痛いな」

「知りませんよ。それでは、お気をつけて」

「ああ、お休み」

「お休みなさい」

 間桐邸に向かうライダーを見送りながら

 空を見る。

 昼間と同じく雲の無い空は

 星がよく見える。

 イリヤ、俺はやっぱりお前に恨まれた方がいいのかもしれない。

 お前を救えなかった俺は、

もはや手遅れになってから救おうとする俺は、

 恨まれた方がいいのかもしれない。

―――午前零時 衛宮邸 道場

 久しぶりの我が家はまめに来てくれるという慎二のおかげか、存外きちんとしていた。

 埃が溜まっているとかどこかにカビが生えているとか、そういうことはない。

とはいえ、家主が不在では家も本来の役目を果たし得ず、結果としてなんとはなしの歪みが生じる。こればかりは実際に暮らしながら馴らしていくほかない。

 一月になるかはたまた一年になるか、逗留期間は不明だが帰るまでに少しでもこの家に息吹を吹き込もう。そんな日常の思考に掛け金をおろし非日常の思考の戸を開ける。

 ふうと、息を吐き、すうと、息を吸い、

 回路に火を入れ、精神をシフトする。

 スイッチを切りかえる。

 一般人から魔術師に。

「―――投影開始」

 手に夫婦剣を投影する。

 ずしりとした確かな重量。

 人殺しの道具。

 いずれ俺はこれを手に戦場に立つ日が来るのだろうか。

 あの戦争では何度となく切り結んだ。

 だがあれ以来、戦闘行為は行っていない。

 たとえばランサーに殺された時のように、

 たとえばバーサーカーの咆哮を聞いた時のように

 たとえばライダーに刺された時のように

 たとえば葛木の拳を見た時のように

 たとえばキャスターの大魔術を受けたように

 たとえばアーチャーと切り合った時のように

 たとえばギルガメッシュと相対したときのように

 あんなひりつく様な、選択肢を間違えば奈落に落ちていくような、

 そんな戦闘行為は久しく体験していない。

「―――投影開始」

 今度は呪文ではなく切っ掛けとして口ずさむ。

 投影するのは、彼女。

 目の前にぼんやりと

 やがてはっきりと

 彼女の姿が像を結ぶ。

 セイバー。

 剣の師にして、パートナー。

 結局彼女の剣技の万分の一も習得することはできなかったし結果的にはアーチャーの剣技を真似ることになってしまった不肖の弟子ではあるが、それでもこの身には彼女の太刀筋が刻まれている。理屈ではなく感覚で、記録ではなく記憶で、頭ではなく心で、彼女の動きを理解した。彼女にしても加減に加減した俺の記憶程度を実力と評価されるのは不満であろうが、そこは脳裏に焼き付けた実戦の動きを付加することで勘弁してもらう。

「久し振りに、稽古をつけてもらうよ。セイバー」

 

 結果としては

 脳天から唐竹に数十回割られ

 横なぎに下半身と百度泣き別れ

 首を千回飛ばされた。

 想像の中ですら未だセイバーに及ばない。

 悔しいような

 嬉しいような

 俺はまだまだ未熟者だ。

 我知らず、笑いが漏れる。

 ああ、やはり、我が家はいい。

 

―――午前七時 衛宮邸 道場

「―――衛宮、風邪ひくよ?」

「ああ、慎二か」

 固い感触を背中に受けて眼を覚ます。

 こういうのも久しぶりだな。

 久しぶりと言えば誰かに起こされるのもまた、久し振りだ。

 私服にエプロン姿の慎二は伸びた髪をサイドにくくって肩から垂らしている。してみると、桜と一緒に朝食を作りに来てくれたのか。本当にまるきり別人だな。

おや、髪をくくっているあのリボンは

「慎二、それ」

「うん、桜からもらった」

「よかったな、似合ってるぞ」

「ありがと」

 少しばかり愛おしそうにリボンに触れる慎二。

 なんだ、結構上手くやってるんじゃないか。

 昨日の時点ではもしやかつての慎二と桜の様にろくでもないことにでもなっているのかとも勘ぐっていたが、どうやら杞憂だったようだ。

 善き哉善き哉。

 いや既に別の意味で碌でもないわけだが。

 慎二に手をひかれ立ち上がり道場をでて母屋に向かう途中、ふと振り返り

「おはよう、慎二」

「おはよう、衛宮」

 至極嬉しそうに挨拶を返す慎二に、男性の面影は既にない。

 多少なり俺の方に違和感があるが昨日の様に無様に打ちひしがれることもない。

 うん、人間慣れだな。

 向かった食卓には既に虎が待ち構えていた。

「おーそーいー。お姉ちゃんは待ちくたびれたぞぅ?あ、慎ちゃんお疲れ様」

 昨日は変わらなくて安らぐと言ったが、訂正。

 少しは成長しやがれ。

 むしろ退行してないか。

 そんな幼虎の労いの言葉に慎二はにこりと笑って

「いえいえ、それじゃあ頂きましょうか。―――桜さん」

「何ですか姉さん」

「リボン褒められました」

「よかったですね」

「えへー」

 不意打ちとは卑怯ですよ、慎二さん。

「―――士郎、昨日からなんか変」

「ああ、時差ボケ時差ボケ。気にするな、藤ねえ」

 砕けた精神を再構築して朝食に手をつける。

 どちらかというと和食系統だが、

「桜、和食も腕上げたな」

「ありがとうございます、先輩」

「え、衛宮さん!」

「うん?」

「味噌汁は僕が!」

「―――ああ、道理で一段落ちると思った」

「ううううう!」

「熱い熱い」

 ワカメがペロンと視界に被さる。

 食べ終え、片付けようとするとさっさと桜と慎二に持っていかれてしまった。手持無沙汰に寝転がる――――ああ、家事してぇ。

 きゃいきゃいと、

 実に仲が良さそうに洗い物をする二人を見て、

 膨れた腹の所為か、

 もはや俺の精神も摩耗してきたのか、

 なんかもう、このままでもいいや、と

 思った。

 思ってしまった。

「士郎。ちょっとちょっと」

「なんだ、藤ねえ。俺は今ヘブンにいるんだ。邪魔しないでくれ」

「なに言ってんの?ちょっと道場まで来てよ」

 

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