病院を出て丁度昼。平日であるので人もそう多くはなかろうと云う事で今一つ不満そうなセイバーを引きずって新都まで足を伸ばした。ライダーがいないことに物足りなさを感じたが映画を見て食事をしてぬいぐるみを買った。途中十年来大破したままの船舶の由来を聞き衛宮と二人して呆然としてしまったりもした。いい加減に日も落ちかける頃、橋の上で手持無沙汰に煙草を吹かしているランサーに出会った。
こちらに気づくと吸殻を橋の下に投げ捨ててこちらに向かって歩いてくる。
「お前らも危機感ねえな。なにのんびり遊んでんだよ」
「わ、私は反対したのですよ?!」
「せめてもその後生大事に抱えてる物を隠してから言うこったな、セイバー」
慌てて後ろ手にぬいぐるみの包みを隠すセイバーであるがランサーは特に気にした風もなく私たちの肩をつかみぐいぐいと押してくる。
「さあ、とりあえず飯を食ってから作戦会議と行こうぜ」
今朝の飯は美味かったとしみじみと漏らす。
どうやらランサーも調味料と貴金属が等価であった時代、もしくは調味料と概念の存在する以前の時代の出身らしく本当に美味かったと繰り返し呟いている。一人暮らしからの必要性からでなく、食べる側の喜ぶ顔が見たいという動機で料理を学んだ衛宮にしてもこの反応は嬉しかったようで照れくさそうに鼻の頭を掻いていたが、サーヴァントが一人でいるという不自然に気付いて質問をぶつける。
「ランサー、お前はマスターのところに居なくていいのか」
「んん?三行半もらっちまった。共闘なんてできるかーっつってな。まあ、共闘はしないが協力はしてくれるらしいから安心しろ」
問いに対してカラカラと愉快そうに笑いながらそんな事を言ってくる。
ランサーのマスターの判断はまあ、妥当なところだろう。ギルガメッシュの戦力が分らない以上手を組むこと自体は悪くないがここで顔を見せるのは最終戦ではメリットとは言えまい。
しかし、遠坂の動向が気になる。
諦めていないとはいえサーヴァントなしで向かってくるほど無謀ではあるまい。となるとどうしても衛宮が言っていたようにランサーを手に入れる必要が生じる。しかしでは何故ランサーは単独行動をしているのだろうか。令呪を残したマスターが他のサーヴァントを奪おうとするのは道理であるのにまるでそんなもの関係ないかのように気ままにふるまう。その行動の真意は―――既に、遠坂はランサーを手に入れているということ。
「ランサー」
「なんだい、嬢ちゃん」
「お前のマスターは遠坂ね」
「ふむう、流石にばれるか。嬢ちゃんは歯牙にもかけられてないみたいだぜ」
「知ってるわよ。ふん、遠坂なら決闘なんて馬鹿げた事も許可するでしょうね」
優雅たれとは遠坂の家訓だったか。
正々堂々真っ向勝負。学校での事で宗旨替えでもするかと思ったが毛頭そんな気はないようだ。忌々しい。何でそこまで強いのか。
しかし、忌々しいながらも遠坂が生きているというのは桜にとっては吉報に違いない。桜は眼を覚ました時、おそらく私など目もくれずに遠坂を選ぶ。そして私のことなど忘れて遠坂の娘として再び生きる。
これは衛宮が私の物になった代償か。
衛宮と桜。
どちらも欲しいと思うのは欲張りなのだろうか。
私にとって何時の間に衛宮はここまでの物になったのか。
欲しいと思ったものは山ほどあった。
手に入らぬものほど欲しかった。
だからだろうか、桜や衛宮に執着していたのは。
だからだろうか、まだ足りないと思うのは。
私は、二人が欲しい。
私と桜と衛宮と、三人で居たい。
食事を取りながらまずは戦力の把握のためにランサーのスキルの確認を行う。
ランサーのスキルとして矢除けの加護とルーン魔術が特に有効かと考えられた。ギルガメッシュが仮にもアーチャーであるのなら矢除けは必須であろうしまた、刻印自体に魔力が込められるルーン魔術ならば私や衛宮に対する援護としては申し分ない。
但し、とランサーは付け加える。
ルーン本来の効力を発揮させるためには供物や使用者の読解能力、適当な染色などが必要になるためあくまでも、お守り程度に考えるようにと釘を刺された。その上で私と衛宮の首筋に鼓舞し無事に帰すという意味の盾のルーンを刻印する。
肌に直接刻印されるというので少しばかり身構えたが特に痛みも熱さもなく申し訳程度の痛痒感が奔っただけで、指でなぞってみれば僅かな蚯蚓腫れになっている。体にも精神面にも特に変化はなく今一つ実感がわかない。この程度ならポケットの中にあるライダーの義眼の方がよほど私に勇気をくれる。
不意にランサーが机の脇に置いてあったメモ用紙をとりさらさらと二つルーン文字を書きだして私に差し出す。良く分らないながらも受取りポケットにねじ込む。
そして耳打ちをされた。
「右が情愛、左が貞淑のルーンだ」
「―――――いるか」
ねじ込んだメモ用紙をびりびりと破り捨てて顔面に抛りつける。
へらへらと笑いながら紙くずと払いのけるランサー。
ほぼ反射的に紙くずを拾い集めてゴミ箱に入れる衛宮。
そして小間使い然とした行動が骨身に染みているようなマスターを見て少しばかり泣きそうな顔になったセイバーは気を取り直して、ランサーに話しかける。
「ランサー、連携のため貴方の動きを確認したい。手合わせ願えませんか」
「あんまり予習はしたくねえんだがな。おい、坊主たちも一緒に稽古つけてやるから付いてきな」
「竹刀や木刀はあるけど、長物はあったかな」
「ていうか、一晩か二晩かの付け焼刃でどうなるものでもないでしょ」
「実力はな。だが勝負度胸は一瞬で付く」
「こんな物でいいか」
「上等上等」
例の倉から衛宮が持ってきた2m近い丸棒を軽く握って肩に担ぐランサー。
「さて、セイバー。しっかり抑えつけとけよ」
「無論です」
私の肩に置いた手に更に力がこもる。
鎖骨が悲鳴を上げている。いくらもがいてもびくともしない。
「放せ!バカじゃないの?!意味がない!イカれてる!訳がわからない!ええ衛宮、助けなさいよ!」
「少し我慢しろよ」
「薄情者!」
「さて、それじゃやるか」
ランサーが満面の笑みで槍のようにパイプを構える。
ランサーの言い分によれば、私は今一つ殺し合いに参加しているという自覚が足りないのだという。自分では何度も死にそうな目にあっているつもりなのだが、それを他所事だと思いこんで自己防衛としているため経験として蓄積されず、結果その都度身体が硬直してしまう。
ならば感覚的にでも一度死んで経験として蓄積すれば大抵のことには耐性がつくだろうという理屈らしいのだが。
「煩い、バカ!お前はユングか、フロイトか!っは!私がそんなせせこましいまねするわけがないでしょう?!」
「慎、南無阿弥陀仏」
「縁起でもない!?」
「嬢ちゃん、その、かなり今更何だが、俺は不器用なんだ」
「更に縁起でもない!?」
「シン、よく言うでしょう。今日は死ぬにはいい日だ」
「極めつけに縁起でもない!?」
私の喚きを無視してランサーが低く体を沈める。最初の日に見せたあの豹かチーターのようなしなやかな筋肉を極限までしならせて爆発させるべき一瞬を待つように体の動きを止める。
そして伸ばしたゴムがちぎれた時の様に僅かな破裂音とともにランサーが私の顔面に向かって丸棒をまっすぐに突きこんできた。だんだんとその占める面積が大きくなりやがて視界全てがおおわれた時に、私はブレーカーが落ちるような音を聞いた。事によるとそれは頭蓋の破裂音かもしれないと暗転していく意識の中で考えた。
どれほどの間気絶していたのか。
目覚めるとセイバーは木刀、ランサーは丸棒から棍棒に持ち替えて武器を合わせていた。
「―――びっくりだわ。生きてる。目も無事。息もしてる」
「おう、起きたか」
「せいやっ」
「……痛い」
鼻頭を押さえながら怨みがましくこちらを睨む衛宮を抑えた手の上からもう一度殴りつける。これは避けた衛宮は少しばかり距離をとってセイバー達を指差す。
「滅多に見れるものじゃないからしっかり見とけよ」
目を向ければランサーが手を早めるのにつられるようにセイバーも徐々に回転数を上げ、その内に私では追い切れなくなりやがて手元は別にして切っ先がまるで見えなくなってしまった。それでも無論のこと、彼らにすれば未だ遊びの領域なのだろう。
打ちあいの音が徐々に間隔を縮めつつ響いていたがやがてぱたりと途絶える。
距離をとったセイバーが、昨晩石段の上でアサシンがしたものと同じ構えをとる。
対してランサーは中段に構えてセイバーが動き出すのを待っている。
僅かにセイバーが呼気を吐くのとほぼ同時に破裂音が一つ道場に響いた。
実際にセイバーの木刀もランサーの棍棒も粉微塵にはじけている。英霊の苛烈な打ち込みには大量生産品では聊か荷が勝ちすぎたようだ。
「シロウ、次の剣を持ちなさい」
興奮しているのか命令口調のセイバーに衛宮は
「残念だがそれで最後だ。もう竹刀も木刀もない」
確かによくよく周りを見てみれば同様の末路をたどった残骸が死屍累々といった感じでばらまかれている。少しは遠慮というものを覚えた方がいいと思う。
ランサーは上機嫌に武装してでも続けようとするセイバーを横目に見ながら
「坊主、エール樽で持ってこい、樽で」
「あるか、そんな物。適当な洋酒で我慢してくれ」
そう言って衛宮がいくつかの洋酒の瓶を持ってきた。
ランサーの勧めを未成年であるからときっぱり断った衛宮に私も付き合わされてしまったので結局ランサーとセイバーの二人だけでの慎ましやかな酒宴となった。時刻は九時前と、大っぴらに戦争をするには聊か早いとはいえこれでは気が緩み過ぎではないかとも思える。
「そういやぁ、嬢ちゃん達は聖杯に何を頼むつもりだったんだ」
「俺は特に。被害が出る前にとっとと終わらせることが目的だから」
「何でお前に教えなきゃいけないのよ」
「……私事ですので」
そうかそうかと頷いてからランサーはさらりと、この戦争の前提を揺るがす事実を口にした。
「だが、聖杯はまともには動かんぜ」
「……っ?!」
セイバーが一瞬腰を浮かしかけたが、その場にとどまりランサーに先を促す。
ランサーはグラスに残ったモルトウイスキーを一息に飲み干して、手酌で継ぎ足しながら、
「妙な物が入ってるらしくてな、ぶっ壊すってことでしか願いを叶えられないそうだ」
「壊すね……。十年前の大火災は別にああいうことを望んだわけじゃないってこと?」
「そうなんじゃねえの?前回の事なんて知らねえよ」
ランサーの言葉を聞いた途端にセイバーの顔面が色を失う。
グラスを持つ手をわなわなと震わせていたが、急に立ち上がりそのまま無言で道場を飛び出し、衛宮が慌ててそのあとを追う。
四人の内二人が場を後にする。当然の帰結としてランサーと私が顔を突き合わせる形で二人きりになってしまった。何でこんな奴と一緒にいなければならないのか。衛宮の阿保。とはいえ、今衛宮を追ってもしょうがないのもまた事実。セイバーを宥めているとすれば私が行くだけ邪魔になるだけだろう。
自棄になりセイバーのグラスに残っていた林檎酒を煽って噎せ返る。それをみてランサーがけらけらと笑う。
「嬢ちゃんは見てて飽きねえな」
「この……!大体随分と落ち着いているじゃないの。お前だって願いがあったから召喚に応じたんでしょ。それとも自分の願いを叶えるためならどんな事があっても構わないって言うの。大層な英雄様ね」
ランサーは私の言葉に呵呵大笑して、もはやグラスも放りだし直接煽りながら答える。
「戦闘行為自体が目的だからな、俺の場合は。俺より強い奴に会いに来たんだ」
「呆れた、なによそれ。ふざけた奴ね。参戦するに相応しい願いを持ちなさいよ」
身勝手だ、と軽く笑ってからそれはたとえばどんなものかと聞いてくる。
「欲しいものがあるとか」
「手前で手に入れられなきゃそりゃあ身の丈に合ってねえ物だ」
「生き返る、とか」
「二度目の生なんて欲しがる奴がいたとしたら、そいつは英雄じゃねえよ」
「やり直したいとか、無いの」
「後悔して生きて楽しいのか、嬢ちゃん。枯れてるな」
既に三本からボトルを空にしたランサーはそれでも毛ほどに酔った様子はなさそうに私をにやにやと眺めている。
気持ちの悪い男だ。
「嬢ちゃんは何が欲しいんだ。魔術師になりたいのか、ライダーに会いたいのか」
本当に、気持ちの悪い男だ。
「それを放せよ。俺は素人だって構わねえ男だぜ」
破断面により殺傷能力が格段に向上している木刀をランサーに投げつける。
軽く受取り両手に縦に挟んで一息に押しつぶす。手を開ければパラパラと木片が床にばらまかれる。単純な腕力だけでも常軌を逸している。化物め。
「種も仕掛けもございません」
「くだらない」
手厳しい、とかなりわざとらしく肩をすくめて私のグラスに酒を満たす。
口を付けずに脇にグラスをおいて、立ち上がる。さっさと出ていけばよかった。心がささくれだってしょうがない。
こんな奴と話すこと何て何一つ在る筈がなかった。
腹立たしいが共闘の利を捨てるのは上手くないと我慢してきたがここまでだ。
例え、それが戦争行為の当然だとしても、
ライダーを殺した奴となんて話すんじゃなかった。
「ランサー」
「なんだい、嬢ちゃん」
「地獄に落ちろ」
背にランサーの耳障りな笑い声を受けながら道場を後にした。
母屋に戻ると、衛宮がセイバーを抱きしめているのが目に入った。
なんとなく、死にたくなった。
外には篠突く雨が降っている。
―――巷に
昔本で読んだ古い歌が頭に浮かぶ。
雨が降る如く―――
前髪が濡れてぺったりと張り付いて気持ちが悪い。
我が心にも―――涙降る
いい加減に歩くのも億劫になってきたが周りにはベンチもない。
そもそも、私は何処に向かっているのだったか。
かくも心に打ち滲み入る――――
公園に着いたのか、ベンチをみつけたので腰かける。
ぐっしょりと濡れたベンチは冷たく硬かった。
この悲しみは――――何やらん
聖杯がまともに動かないのならばライダーを再び召喚したとしても何かしらの不都合がともなってくるのだろう。 桜の事を願っても最悪、命を落としてしまうのかもしれない。
―――うふ
気が付くとうふ、うふと肺が痙攣するように空気が漏れて、笑いたくなんてないのに耳障りな笑い声がこぼれ続けた。先ほどからごりごりとポケットの中で主張し続けるライダーの義眼を一度握りしめてから思い切り放り投げると音もなく闇に溶けて消えた。
もう、どうでもいい。
「もう、どうでもいい」
口に出してみたら、本当に何もかもがどうでもよくなった。
桜の事も、遠坂の事も、ライダーの事も、魔術師の事も、何もかもが、皆等しくどうでもいい。いっそこのまま遠くに行くのも良いかもしれない。幼い頃会ったきりの雁野叔父を訪ねて東京に行くのも悪くない。なんて益体もない事を考える。
そうしているうちに肺の痙攣が収まり今度は両の瞳から涙がとめどなく溢れ出てきた。止めようとしても止まらない。そもそも涙とはそのような類のものでもなかったか。仕方なく流れるに任せて流しておく。
どれだけ泣いたか、そろそろ枯れ果てたかと思う頃、衛宮がいつの間にか私の前に立っていた。思わず疑問の声が口を吐く。
「なんで」
「言うまでもない。俺がお前に惚れたからに決まっている」
いつのまにか私に傘をさしかけていた衛宮は学校で朝のあいさつでもするような気やすさで、私を抱きしめた。
「だから、泣くなよ」
「衛宮ぁ……」
「泣くなって」
何もかもどうでもいい。
だけれど
衛宮だけは、傍に居て欲しかった。
これはどうしようもない。なにしろ、私も衛宮に惚れてしまったんだから。
衛宮邸に戻ればセイバーとランサーが既に武装して待ち受けていた。
「シロウ」
「うん、行こうか」
「ランサー」
「なんだい、嬢ちゃん」
殴りつける。
今度は避けなかった。
「死んじゃえ」
「やなこった」
軽く笑って私の頭を軽く撫でるランサーは、思いのほか気持ちのいい笑顔を浮かべていた。
Interlude in
「―――So
as I pray, unlimited blade works」
アーチャーが呪文を紡ぎ終わると瓦礫だらけのビルが火に包まれ火勢が弱まる頃には一転、軋みを上げる歯車と無数の剣に埋め尽くされた錆びた丘に塗りつぶされていた。
これは、固有結界。
こんな何もないところがアーチャーの心象風景だというのか。
幾分離れた所で先ほどの射撃より蘇生したバーサーカーの脇でイリヤスフィールが驚愕の表情を浮かべている。それはそうだろう。
至る者は至るという類のものとはいえ固有結界を所持するサーヴァントなど普通は想定するはずもない。そして、その想定外を平然と行使した当の本人はいつもの皮肉気な笑みを浮かべたままバーサーカーに宣言する。
「今より貴様が挑むのはこの無限の剣、尽きせぬ幻想だ。なに、臆することはない。かかってこい―――――――相手をしてやる」
言って手近に刺さっていた剣を引き抜きバーサーカーに突き付ける。
敵わぬ筈の化け物を打倒し、数えきれない試練を踏破し、感謝よりも尚多い怨嗟を許容して人々を救ってきた筈の彼は、生前常にそうしていたであろうように息をするように背負い、眼前に敗北必至である筈の敵を前にして、怯むことなく剣を構えた。
その様は正しく英雄。
対して、これもまた掛け値なしの大英雄を従えるイリヤスフィールはすでに驚愕の表情を納め、己の従者への絶対の信頼を持って命令を下す。
「最強を見せつけてあげる――――狂いなさい、バーサーカー」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――――!」
バーサーカーの咆哮が空気を震わせ、生前の技量を捨て去った代わりに得た無双の剛腕を持って振るわれる無骨な斧剣が唸りを上げアーチャーに迫る。
仕掛けも何もあったものでない。
真っ直ぐに突っ込んで真っ直ぐに振り下ろす。
無論アーチャーもこれを易々と交わすが傍目には剣風に吹き飛ばされたのかと錯覚する。それに斧剣が追いすがる。片手で受けたアーチャーの剣は紙の如く砕かれ腕も奇妙に折れ曲がる。
但し、この時点でバーサーカーの喉にはアーチャーの蹴りあげた剣が貫通し頸椎を砕いていた。動きの止まった巨人に残った右手で握った剣を手に切りかかる。
間髪を入れず蘇生したバーサーカーがのど元に突き付けられた剣を引き抜きそのままアーチャーに突き出す。アーチャーは折れた左腕に添え木変わりだとでも言うようにその剣を通し、代わりにバーサーカーの胸に剣を突きたてようとする。
これを剣としては異様な幅を持つ斧剣で防御したバーサーカーの拳が迫るが足裏で受けくるりとバク転をして少しばかり離れた所に着地する。拳を受けた右足は、耐えきれず骨が膝を突き破り飛び出していた。
イリヤスフィールがふんと胸をそらす。
「よっわーい。もう満身創痍じゃないの」
対してアーチャーはやれやれと首をふり、諭すように
「命一つに足と腕が一本ずつ。随分と手を抜いてくれているようで恐縮だな」
「この……!バーサーカー、さっさと止めを刺しなさい」
クツクツと笑いながらアーチャーは両手に夫婦剣を投影する。
ギチギチと、
いつの間にか傷口から生えた剣先が音を立てて飛び出した骨を身体に引きこんでいく。おそらく補強するように骨を貫いているのだろう。
それがどれほどの苦痛であるのか、アーチャーはしかし、汗の一滴、呻きの一つも漏らさずに再びバーサーカーに相対する。
「――――鶴翼、欠落ヲ不ラズ」
「あー……―――」
呻きを上げて額に手を当てる。
家に戻ってすぐ眠ってしまったらしい。
窓から外を見ればとっぷりと日も暮れている。
「参った。私ってここまで割り切りのできない女だったんだ」
愚痴をこぼしてから手探りで電灯のスイッチを入れると二三度の明滅を繰り返してから明かりがともる。傍の机の上に目を向ければ弾頭の消えた弾丸が五つ、ルビーのペンダントを中心に据えた魔法陣の頂点に置かれている。目を凝らしてみればその宝石の中に渦巻く魔力量は私が十年かけてためた量に勝るとも劣らない。英霊の血でエンチャントされただけはあるといったところか。
脇によけてあったサファイヤと一緒に手に取り片方をポケットに放り込みもう一つを首に掛ける。
サファイヤは言わずもがなランサーから渡されたルーンの刻まれたモノ、ルビーはアーチャーが別れしな渡した衛宮君が持っている筈の父の形見。厳密にいえば、無限に連なる並行世界の何れかの、という枕がつくのだが。
――――つまり、そういうことだよ。遠坂
済まなそうにそう告げて消えたアーチャー。
まったく、私はアンタに立ち直らせてもらったというのに。
バーサーカーを打倒して私を守りとおした英雄の強さに憧憬の念すら抱いたというのに。
アンタの背中を見せつけられて私は再び桜を自分の力で手に入れようと思ったのに。
そのアンタにそんな後悔しているような顔をされては私の立つ瀬が無いではないか。
まあ、とにかく。
「一丁気合い入れますか」
Interlude out
二次創作へ