朝、慣れない寝床の所為かいつもよりだいぶ早く眼が覚めてしまった。外を見ればようやく東の空が白み始めた程度。弓道部の朝練だってもう少し眠れるのに。とはいえ別段朝に弱いわけでもないのでプルプルと頭を振って眠気を外に放り出す。

立ち上がり襖を開けようと伸ばした手が大分手前で空を切ってしまった。距離感の喪失。片目となったデメリット。なんとなく機能を失った左目に手を当ててしまう。もはや只の残骸となってしまったが、そのお飾りのとなった眼球は私に実感を与えることには一役買っている。

私は魔術師の世界に関わっている。

私は魔術師だ。

 我知らず、口が歪む。

 切望した物が手に入るとはなんと嬉しいものか。

「うん。よし。うん」

 一頻り喜びを噛みしめてから再び襖に手を伸ばす。今度は上手く手をかけられた。

 一旦廊下に出てから衛宮の部屋を覗き込むが、すでにもぬけの殻であった。朝食の支度を始めるにしても早すぎる時間であると思うが。とにかく顔を洗おうと洗面所に向かう途中、ふと、衛宮邸には毎日桜が来ているということを思い出した。元々は怪我をした衛宮の手伝いであり怪我が治ってからも惰性でいりびたっている。とにかく、つまり、今朝は桜と食卓をともにするということだ。

「桜と朝ごはん……」

 その事実に思わず意識が真っ白になる。間を置いてからじわじわと自分がここにいることが不自然であるという感覚が湧き上がってくる。果たして自分はここに居ていいのだろうか。ここは桜にとっては私や間桐を忘れられる憩いの場ではないのだろうか。

 意味もなくその場で足踏みをしながらぐるぐると思考が渦を巻き続ける。そしていい加減煮詰まりかけたころ合いで声をかけられた。

「姉さん、制服持ってきました」

「あ……桜」

「それじゃ、私朝食の準備がありますから」

「あ、ちょっと……」

 制服を押し付け、すぐに立ち去ろうとする桜の背中に手を伸ばして、しかし、続く言葉が出てこない。何を言えばいいのだろう。そうこうしているうちに桜はどんどん離れて行ってしまう。そうして桜が廊下を曲がり見えなくなってからようやく、ごくごく小さな声で「おはよう」とだけ呟くことができた。

 

 結局朝食は終始気まずいままで、何時もとは別の意味で味がわからなかった。

 もったいない。

 とはいえ、戦争中はこれがつづくのであるからいずれ、きっと、素直に美味しいと感じられるときが来る。きっとくる。

 とにかく今は生き残ることを考えよう。

 明日も桜とご飯を食べるために。

「なぁ、慎。口元が大分だらしなくなってるぞ」

「だって桜のお弁当よ?初めてなんだからね、こんなの」

「そうなのか?前もたまに持ってきてたじゃないか」

「あれは自分で作ったの」

「お前ら前からそんなに仲悪かったのか?ああ、そういえば。桜は戦争のこと、ていうか間桐が魔術師の家系だってことは知ってるのか」

 場所は学校の屋上。

 時間は昼休み。

 いわゆる一つの作戦会議、である。

「あのね、魔術は長子にのみ伝えられるものなの。それでなくても桜みたいなトロい子が魔術師なんてものになれるわけないでしょ。だから桜は一般人」

 すらすらと、嘘をつく。

 桜は私よりももっと暗く汚く深く魔術に関わっている。間桐の、ひいてはこの戦争のためだけに魔術に関わっている。探求のためでなく、求道のためでなく、研鑽のためでなく、只只、御爺様の道具として魔術の世界に組み込まれている。

 だけど桜、私はそれでもあなたが羨ましかった。

 代を重ねた魔術師の末であるということを拠り所に、僅かばかりの書物を明りに、齢二百を超える御爺様を偶像に、宗教を信仰するように、消して至れぬ魔術師として自分を夢想することしか叶わなかった私は、どんな形であれ魔術師となった貴方が憎かった。例え妹として貴方を想おうとも魔術師になりそこなった悔しさがそれを上回った。

 だからこそ私は桜から距離を取るようにしていた。

 私が桜を傷つけずに我慢できる距離を保つようにしてきた。

 以前、その一線を踏み越えて近づきすぎた時は衛宮が止めるまで私は桜を見るたびに激情にかられて手を振り上げる毎日だった。そして何よりも桜が私以外の何かに謝る声を聞く度に桜の世界に私はいないということを実感させられるばかりだった。

 だけど今は、ライダーを使役している今ならば、桜と対等に向き合うことができる。同じ場にいることができる。きっと、いつか、只の姉妹になることだって、できる。

 衛宮は私のそんな葛藤に気づくそぶりも見せずほっとしたように胸をなで下ろし、

「うん、一安心。となるとしばらくは家に来させない方がいいな」

「な、なんでよ?関係ないんだからいいじゃないの、別に」

「少なくともランサーのマスターと遠坂。この二人には俺たちがマスターであることを知られてるんだが」

「ランサーはともかくなんで遠坂が知ってるのよ」

「昨日、ライダーが言ってたろ。ランサーが離脱した後に二つサーヴァントの気配がするって。一つはセイバーとしてもう一つはなんだと思う?昨日お前が答えを示したんじゃないか。セイバー、ライダー、ランサーでなく、気配遮断をもつアサシンでなく、理性を持たないバーサーカーでなく、遠見を使えるキャスターでなく。残る可能性はアーチャーのみ。そして遠坂のサーヴァントのクラスを言い当てたのはお前だろ」

「でも、桜は部外者で……」

「俺は目撃したってだけで殺されかけた訳なんだけど」

「う、ううう……」

「らしくないな。なんでそこまでこだわるんだ?」

「だって……ご飯」

「ん?」

「桜と一緒にご飯食べたいんだもん」

 間をおいてから衛宮の笑い声が屋上に響いた。いつまでも笑いつづける衛宮の後頭部を力いっぱい叩いてむりやり止める。それでもまだ笑いつづける衛宮は目元を手で覆い空を仰いでひときわ大きく笑ってから私に向きなおりその手を私の頭の上に乗せた。

「要するにお前は桜と仲良くなりたいけれど素直になれなくてとりあえず歩み寄りのために食卓を共にしたいと。驚いた。びっくりした。慎にそんな可愛いところがあったとは」

「煩い!手をどけなさいよ」

「うんうん。俺は嬉しいよ。そういうところをもう少し表に出せば同性の友達だってもっと増えるぞ」

「したり顔でうなずくな!衛宮は友達自体ほとんどいない癖に!」

「放っておいてくれ。ともあれ、仲良くなりたいなら戦争が終ってからだな。死んでしまったら元も子もないぞ」

「―――仕方無い、か」

「そうそう。理性的にな」

 それ以前に、と衛宮は食べ終えた弁当に蓋をしながら少しばかりしかめつらしくしながら

「そういう風に思うんならなんで桜のこと殴るんだ、お前は」

「何のことよ」

「とぼけるなよ、桜は毎朝家に来てるんだぞ」

「―――ついよ」

「ついで殴るな。そんな当たり前の事も出来ないのか」

「ふん。衛宮の癖に偉そうに」

「よし、しばらく家にくるなっていうのはお前が桜に伝えろ。そのとき一緒に謝っておけ」

「……衛宮が言っておいてよ」

「俺がやっちゃ意味ないだろ。歩み寄りの一歩目だ。言葉の力は偉大だぞ?話さないとわからないことなんて山ほどある。妹を危険から遠ざけるのに遠慮する必要はないだろ。なにより俺は戦争のことを隠したまま桜を遠ざけるような方便は思いつけない」

 衛宮がはははとわらったところで授業開始十分前を告げる予鈴がなった。さて、と食べ終わった弁当箱を包みなおして腰を上げ屋上を後にしようとして目の前に手が差し出されていることに気づいた。

「なんのつもりかしら」

「左眼、見えてないんだろ」

「分かってたの?」

「隠してるつもりだったのか。今朝から変によろめいたり左側を探るように手を伸ばしたり。傍から見たら随分と露骨だったぞ」

「ライダーにね、あげたんだ」

「なるほど。でもそれじゃお前が危険だろう」

「なによ、守ってくれないの」

 衛宮はふむと頷いてから、

「―――そうだな。俺が守れば済む話か」

「そうよ。命を賭して守りなさい」

 衛宮の手をとり立ち上がり、屋上を後にする。

 放課後、しばらくの作戦会議の後夕日の差し込む廊下を衛宮と連れだって歩く。流石に今は手をつなぐなんてことはしていない。それでも私の左側に衛宮を立たせることで多少なりの安全性は確保している。階段の手前あたりに来たところで衛宮が不意に立ち止まりきょろきょろとあたりを見回し始めた。

「どうしたの、衛宮」

「いや、昨日刺されたのはここらへんだったと思ってさ。そりゃあ俺も出来るだけ拭き取ったつもりだけど思っていたよりもきれいに消えてるな。なぁ慎。結局俺は何で死ななかったんだ」

 それは―――

「それは、ランサーが狙いを外したからでしょ」

「いやいや。相手は英霊だぞ。そんな凡ミスするもんか。百歩譲ってそうだとしても傷がふさがっているのはおかしいだろ」

「―――知らない。お前が勝手に助かったんでしょ」

 そう、私は知らない。

 遠坂があの場にいたことと

 衛宮が生き返ったことの間に関係があるなんて

 考えたくもない。

 私を守るのは衛宮で、衛宮を助けるのは私なのだから。そこに異物が、しかもよりにもよって遠坂が割りこむだなんて、我慢ならない。

「いったい何を怒っているんだ、お前は」

「知らないってば。ほら、早く帰るわよ。遠坂にでも見つかったらつるべ撃ちだわ」

「そういやさっきなんか言ってたな。あー、ガンド撃ちだっけか。あれってようするに当たると風邪をひくってやつだろ?なにもそこまで警戒しなくてもいいんじゃないのか」

「遠坂のは別格。密度が高すぎて実弾と変わりないし、弾切れなしの機関銃とでも思っていなさい、ってさっき言ったでしょ!?」

「うーん。できるだけ平和的に行きたいなぁ。なにより遠坂とは戦いたくないしな」

「なによ、衛宮もいっぱしに学園のアイドルにあこがれてるわけ?」

「まぁな。単純に綺麗だと思うし、かっこいいじゃないか。名前通りに立ち姿も稟としてるし―――なんだよ、その覚めた眼は」

「別に?ただ私の前で遠坂のことを褒めるんじゃないってこと」

「あー、お前も対抗意識とかあるわけなんだ。もう少し、猫かぶってみたらどうだ?いまでもそれなりには人気あるんだし」

「はぁ?なんで私がこれ以上ショミンに合わせないといけないわけ?」
「いやいや、それわりとボロボロポロポロはみ出してるから」

 そう笑う衛宮をあとにおいてすたすたと先行する。

 ムカムカする。ささくれ立つ。イライラする。胸が焼きつく。よりにもよって私の前で遠坂を褒めるとは何事か。なによりも腹が立つのはその程度のことでここまで心を乱す自分自身であるのだが。べつにいいじゃないか。衛宮が誰に惚れようとも。ふん。そうだとも。衛宮は只の親友だ。それが遠坂なんかの猫かぶりにころりと騙されていることに腹が立つのだ。それだけだ。ふん。

 勢いよく階段に差し掛かったところで上の階から声をかけられた。

 今最も会いたくない相手からの声だった。

 鋭いナイフのような赤い声だった。

「そこを、一歩だって動くんじゃないわよ。慎」

「遠……坂」

 一歩、一歩、ゆっくりと遠坂が階段を下りてくる。一目で分かる怒気、隠そうともしない殺気がその周囲に渦巻いている。なんだ。これは。

 たしかにお互いに仲がいいとは言えない。少なくとも私はこの戦争に乗じて遠坂のことを殺そうとしている。遠坂にしても参加者である以上殺す気で来るのも当然だろう。だけど、これは違う。戦争のためだなんて、整然とした前置きなんてなしに殺したいから殺すという至極直接的な殺意だ。なんだ、ここまで憎まれる覚えなんてない。

「なにもかも」

 遠坂が口を開く。

「何もかも聞いたわ」

 一歩近づく。

「桜が間桐にされたことも」

 同じ階に、遠坂が立つ。

「桜があなたにされたことも」

 一歩近づく。

「桜からなにもかも」

 私の目の前に遠坂が来る。

「なにもかも、なにもかも、なにもかも。全部聞いたわ。慎」

 ぐいと胸倉を掴まれ、どんと背後の柱に押し付けられる。

「私は貴方のことなんか大嫌い。大嫌いだけど信じてた。貴方なら、魔術師でない貴方なら桜に危害を加えることはないと、どんなに仲が悪くたって桜の日常の拠り所になれると信じてたのに―――!」

 その物言いに、少しばかり、頭にきた。

「随分と勝手を言ってくれるじゃないの、遠坂ぁ?」

 がつんと、額を突き合わせる。

 じりじりと、遠坂の熱が私に伝わる。

「十一年。長い、長いわ、長すぎる。貴方が桜を放っておいた期間は長すぎるのよ。ええ?人生の半分以上をほったらかしにしておいて、すぐ近くに居を構えていて、あまつさえ同じ学校に居て、信じていた?っは。拠り所というのなら、あなたがなればよかった。私を押しのけてでもなればよかったじゃないのよ」

「私だって学校ではそうなれるように振舞ったわよ。だけどそれ以外では、遠坂と間桐の相互不干渉の盟約にかかわる、当主としてフォローしきれないのはわかっているでしょう」

「私に云うんじゃあないわよ。私が言っているのはあんたがこの十一年間、桜よりも遠坂を優先してきたってことなのよ。それを今更どういい繕うつもりなのかしらねぇ」

「私は魔術師よ。なら家のことを優先してしかるべきでしょう。それで桜のことも気にかけるのが悪いって言うの?」

「ええ、悪いわ。桜は私の妹よ。間桐桜よ。人の家のことに口を出さないで頂戴。協定なんか無視できる立場に居ながら、強引に奪還できる力量を持ちながら、溢れるほどの機会に恵まれながら、尚桜を放っておくようなら、これからも放っておけばいいじゃない」

「――――慎!!」

「遠坂ぁ―――!!」

 お互いに振り上げた手を横合いから掴まれそのまま強引に引きはがされる。その手の主はもちろんのこと衛宮である。やれやれと言った感じで溜息一つついてから私を自分の方に引き寄せてから遠坂に向きなおり、

「暴力はよくないな、二人とも」

「どきなさい、衛宮。遠坂が殴れないじゃない」

「殴るんじゃありません。ほら、遠坂も引いた引いた。俺が関わるような話題でもないようだから今度桜を交えて三人で落ち着いて話し合えよ」

「――――ああ、そう。だったらここからは、衛宮君も関わってることを始めましょうか」

 遠坂の左手が奇妙な幾何学模様で光出す。

 アレは遠坂家の魔術刻印。子々孫々に受け継がれる家系の歴史。蓄積された魔術の塊。つまり、ここからは、魔術師の世界。私の、私たちの世界。ついに、ようやく、やっと、辿り着けた私の理想。

「さあ、聖杯戦争を始めましょう」

 

Interlude in

 

 ライダーは独考する。

 衛宮士郎について独考する。

 単純明快、お人好しであるといえる。

 ただ、そのお人好しの下にはもう少し複雑なものが隠れていそうでもある。

 自己犠牲と言えば聞こえはいいがその実は単なる無謀主義者、少々ひねくれた厭世主義者であるともいえる。

慎に聞いたところによれば彼の理想は正義の味方であるという。

 平時であるならば彼の理想は微笑ましいものであろう。だが非常時、殺し合いを許容する状況に巻き込まれた時にその理想は彼の資質とあいまって非常に危なげなものへと転ずる。彼は我と我が身以外の全てに価値を求めて、逆説的に自身の価値を零としている。死ぬのは確かに怖かろう。傷つくのは確かに痛かろう。だがしかし、他人が死ぬのは更に怖いし他人が傷つくのは更に痛いという価値観を根底に持っている。

 故に前に出る。実力もないのに前に出る。有態に言って足手まといどころかはっきりと邪魔である。マスターはマスター同士の戦いにのみ専念していればいいのだ。その点ではシンも前には出ないものの戦闘を常にそばで見たがる癖も改めさせなければなるまい。

 それでも最優のセイバーを引き当てたことはそれなりのアドバンテージと見ても良い。色々と問題は山積みであるようだが上手く活用できれば彼自身も、ひいては協力関係にある慎にも生き残る眼が見えてくる。

 シンから視覚を拝借したとはいえ左半分のみ。

 もとより何かしらの武芸を修めたわけでもない、英雄というものの対極に位置するこの身ではそれはやはり致命傷に違いない。

 痛みはなく、されど、確実に命に至る傷跡が既に刻み込まれている。

 願わくば、衛宮士郎がシンを守りきるまでその理想に殉じることの無きように。

 ライダーは独考を続ける。

 

Interlude out

 

 鞄越しに偽臣の書を握りしめ、息を整える。今の私に行使しうることのできる最大をぶつけるべく機を探す。刻印はすっかり浮かび上がったというのに遠坂は構えることもせずに悠然とこちらを見ている。そして、睨み合いにも飽きたのか、こちらに一歩、二歩、三歩。注意を払うべきは目の前の私たちではなく、いずこかにいるはずのサーヴァントのみとでもいうかのようにこちらには気もそぞろ――――――――今。

 音もなく放たれる黒い爪が三つ、遠坂に向かう。

 遠坂の顔に現れた驚愕の表情はすぐに消え刻印の浮かぶ腕を地面と平行に、人差し指をこちらに向けて五月雨の如くガンドを乱射する。私の爪はガンドよりは遅い。範囲も面でなく線。威力も遠坂の量の前では意味を成さない。だがそれでも幾らかはガンドを相殺できる。

 少なくとも近くの教室に飛び込む程度の隙は作れた。

 窓際の机をひっくり返しバリケード代わりに。

「衛宮、大急ぎでこの机を強化しなさい!」

――――同調、開始」

机の脚をつかんだまま衛宮がそうつぶやく。
――――基本骨子、解明」

額には脂汗が滲む。

がらりと入口の引き戸が開けられる。

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!「――――構成材質、解明」ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!脚をつかむ手により一層の力がこもる。ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!手前の机が吹き飛ばされる。「――――、基本骨子、変更」なんで、そんな苦しそうな顔を。形成済みの回路に魔力を通すだけの行為に苦痛なんて。ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!狙いを外したガンドが窓を破りガラスの破片が頭から降り注ぐ。「――――っ、構成材質、補強」このバカ。まさか毎回一から魔術回路を作ってきたのか。ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!「――全行程、完了」ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!

 ガンドが机に降り注ぐがバリケードとしての役目を十二分にこなししっかりと受け止めている。吹き飛ばぬように机の陰からはみ出さぬように体を縮こまらせながら脚を押さえつける。息を整えた衛宮はさて、という風に私の方に視線を向け

「どうする?このままだとジリ貧だ。いつまでも持つものじゃないぞ」

「セイバーを」

「令呪でも使わない限り距離があり過ぎる」

「私が爪で援護しつつ衛宮が特攻」

「向こうに着くまでに体重が20kgほど減りそうだ」

「そこの窓から飛び降りる」

「ここは三階だ」

「となると―――」

 ――――ライダー。遠坂を殺しなさい。

 念話でそう呼びかける。

 机の陰からでは確認できないが今遠坂の背後にライダーが実体化しているはずだ。

 サーヴァント同士では一歩遅れをとると言ってもマスターが相手ならば例え遠坂相手でも物の数ではない。衛宮は誰も死なせるつもりはないと言ったがこの状況ではそうも言ってはいられない。結果的に例え共闘関係が終ろうとも私の目的の一つはこれで達成される。ならば、是非もない。

 唐突に、背後の窓から音もなく矢が二本、飛びこんできた。一本は私と衛宮の中間を射抜き机に穴を穿つ。そしてもう一本は頭の上を通り抜け、向こう側に、その高さはちょうどライダーの頭の位置と同じ。

 気がつけばガンドはいつの間にか止んでいる。

 それの意味することは、つまり、用を成したということ。

 その用に思い至る前に更に矢が飛来する。今度は十二本。

 内五本が、等間隔で先ほど穿孔した矢と同じ高さで。とっさに転がりこれを回避。

 残り七本がばらばらの高さでこちらを通り過ぎる。それらが壁に穴を穿つような音は聞こえず代わりにくぐもったライダーのうめき声が聞こえてきた。

「ライダー?」

 ふらりと立ち上がる。

 ガンドは来ない。

 矢も来ない。

 それは双方とも用を成したということ。

 つまりあのガンドの嵐は私たちの足止め、ですらなく単にライダーを焙りだすための撒き餌。そしてライダーの実体化と同時に飛来した矢が本命。マスターを物の数としなくともサーヴァント同士の戦いではライダーは及ばない。

 結果としてライダーは右肩と脇腹と左肘と右胸と左膝と左手と左太腿に矢が突き刺さり壁に磔にされている。最初の一本は牽制だったのか、唯一外れライダーの首を薄皮一枚切っただけである。

 弱弱しくではあるが肩が上下している。偽臣の書も顕在。大丈夫。まだ、大丈夫。

「ライダー――」

「右足」

「え―――が」

 足がもつれ倒れ込みしたたかに顔を打つ。くそ、なんて間抜け。こんな事をしている場合ではないのに。早くライダーから矢を抜かないと。だから、くそ、なのに、なんで、なんで、なんで―――!

 私の右足は矢が刺さったくらいで動かなくなるんだ。

 たかが骨が砕けたくらいでたかが筋肉が切れたくらいでたかが肉が裂けたくらいで、なんで足が動かなくなるんだ。くそ、要らない。動かない足なんて只の錘だ。こんな物要らない。くそくそくそ!なのになんでこの錘はまだ私の体に未練がましくくっついているのだ!私の身体なら私の意志に従ってさっさと千切れろ!

 ああ、衛宮。いいところに来た。私をライダーのところまで早くつれていきなさい。

「そんなに怖い顔しないでよ、衛宮君。私は別に慎を殺す気はないわよ。単にリタイヤしてもらいたいだけ。ソイツはいくら口で言っても利かないから、分かりやすく体を動かなくする必要があるの」

「だったらそこまでライダーを痛めつける必要はないだろ」

「これでもさっき首を折られかけたのだけれど?これぐらい大目に見てほしいものね。慎、どうやってマスターになったかは知らないけれど教会に連絡して令呪を消してもらいなさい。それで貴方はこの戦争を安全に降りることができる。もう充分に魔術師気分は味わったでしょう」

「私は―――魔術師よ」

「随分と、哀れだわ。私は貴方のことが大嫌いだけど死ねばいいとまでは思ってはいない。その足で桜のことは償ったことにしてあげるからこれからは桜に優しくすることね」

「私は、まだ諦めない」

「慎、家というのは一人で住むようには出来ていないの。私はそれを充分に知っている。だから桜を一人にはさせない。桜のために貴方を死なせるわけにはいかないの。だから、見苦しく蠢いていないでとっとと諦めなさい。貴方は巻き込まれただけの被害者よ」

 遠坂の眼がこちらをみる。

 いや、この距離においても遠坂は私を見ていない。私を通して桜を見ている。私に対する憤りはすでに消え去り桜までのバイパスとしてしか私を使っていない。

 鼻の奥にツンと痛みが走る。

 足の痛みが今更響いてきた。痛い。痛い。痛い。

 私は結局――――ここまでなの?

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二次創作へ