―――――翌日 某空港

「ん、あれ?あー……イリヤ?」

「お久しぶりね、リン」

 結局一晩経っても事態は好転せず、そのままのイリヤを伴って遠坂を迎えに空港に向かったのだがなんだか微妙に空気が重いというか、痛いというか。離れて、イリヤ。

「なに、慎二の奴消えたの?」

「ああ、うん。それはもう、いいんだ。とにかく大聖杯の解体をすまそう」

「ふぅん……?もういい、ね。――――それならそれで。どうせついでだったし」

 遠坂はつまらなそうに言って、荷物をレンタカーのトランクに放り込み助手席に体を滑り込ませる。それにイリヤがわざとらしくも大げさに騒ぐ。

「ちょっと、リン?そこは私の席なんだけど」

「ほらほら、士郎。そんなキャラの崩れた元ロリッ子なんてほっといて早く出してよ」

「シロウ?」

「いや、仲良くしてくれよ。頼むから……」

 苦笑いしながらイリヤを後部座席に座らせて冬木市へ向かう。

 二時間ほど走り新都に入った辺りで遠坂がぽつりと、誰に聞かせるでもなく、うっかりとこぼれ落ちてしまったように「―――桜」と口にした。それに気がついてか一瞬顔をしかめて、ひとつ溜息をつく。

「気になるのか」

「もちろん。前にロンドンで慎二が言ったことを真に受けてるわけでもないけど、私もあんたも冬木出ていっちゃって、あの子大丈夫なのかなってね」

「あー……」

 この三日間のことをいろいろと思い出しその心配がまるで的外れなことに我知らず笑いが漏れる。それを聞き咎めたのか、遠坂が怪訝な顔でこちらを覗きこむ。そして疑問を口にする前にイリヤが声をあげた。

「あきれた。リンってばサクラのこと何にも分かってないのね」

「……どういうことよ」

「そのままよ。ね、シロウ」

「そのパスは受けきれないなぁ……」

「なによ、シロウのへたれ。いい、リン。なんであなたがあの子をそこまで過小評価、っていうか守りたがっているのかしらないけどね、そんなヤワなタイプじゃないわよ、アレは」

「なによ、そっちこそわかったような口をきくじゃないの。桜はね」

「サクラは、あなたが思っているよりもっとずっと利己的で自分勝手で弱虫で、強い子よ」
 そうこうする内に家に着き机に何とか書き上げた円蔵山の地図を広げ遠坂に見せる。

「入口は円蔵山中腹にカモフラージュされて設置されてる。そこからしばらく歩くけど一応ライトは設置しておいたから、迷うこともない」

「大聖杯の起動式の方は?」

「それは裏に描いてある。イリヤに添削してもらったからあっているはずだ。現状は魔力が足りないからか、静かなものだな。戦争の時に慎二の体から出てきたあの泥だか肉だかも精々気配くらいだから解体作業中に溢れてくるなんてこともないと思う」

「うん、上出来。それで、イリヤ」

「なに。手伝えとでもいうのかしら」

「もうしばらくしたらロードがやってくるからあなたの手を借りる必要はないわ。そうじゃなくてね、なんで、あなたが、ここに、いるの、かしら?」

「シロウ、リンが怖いわ」

 俺に覆いかぶさるようにして体重を預けているイリヤが笑いながらそんな事を言う。

 遠坂の視線がとても痛い。視殺される。胸かな……胸だろうなぁ。

「いやいや、全面的にお前が悪いから。応援するっていっただろ」

「そんなことも言ったわね」

 わざとらしくいいながら離れるが、それでも俺の隣に腰を下ろす。

 場所を移して遠坂邸、である。

 遠坂は机の上に広げられていた地図をくるくると丸めて脇に寄せ少しばかり冷めてしまった紅茶に口をつけると、ふっと肩の力をぬいて「なんにしても」とイリヤに笑いかける。

「よかったじゃないの。今、楽しいでしょ?」

「そうね。元のままじゃとっくに活動停止しているでしょうし、変なことにはなっているけれど、うん、ただ生きてるっていうのがこんなに楽しいとは思わなかった」

 士郎が元のままならもっとよかったけど、なんてイリヤが笑う。

「あら、案外ものを知らなかったのね。世界はびっくりするくらいに優しく出来ているのよ」

「そうね―――うん、きっとそうね」

 

 再び命題について考察再開、である。

 男女間の極まった友情を何かの拍子に恋愛感情と取り違えてしまうことも、時にはあるだろう。だがしかし、振り返ってみてそれらに本質的な違いが、相方としての独占欲と恋人としての独占欲に、なにか明確な差異があるのかどうか。

 それについて恋愛の行き着く先から考えてみよう。

 恋愛の行き着く先にはプラトニックな関係があるはずもない。肉体関係にむかって突き進むのが原始的でありながらもごく当然のなりゆきだろう。無論、人間に自我というものがある以上それを念頭にすえず彼と我との精神的相乗を目的とした、いや単純に心地いいからという理由でだって交際ははじまるだろう。だがそれでもいずれは肉体関係にいきつくはずだ。

 つまりそれは――――

「あー、それは……んー、それは……」

「士郎?しーろーうー?もしもーし?」

「あ……遠坂」

「まったく。あいかわらず弱いわね」

 遠坂は呆れたように言いながらコニャックで満たされたグラスを傾ける。

 俺の方のグラスはロックアイスがだいぶ溶けてしまい手をしとどに濡らしている。結構長い間うとうととしていたらしいが取りこぼさなかっただけ上出来だろう。

「慣れてないだけだ……あれ、イリヤはどうした……?」

「桜とライダーが連れて帰ったわよ。―――ねえ、士郎」

「なんだ、俺が落ちる前に用件を済ませてくれ」

「桜がイリヤのこと姉さんって呼んでたのはどういうこと」

「だって、あの体は慎のものだから、桜は慎のことを言ったんだろ」

「だれ、それ」

「慎は慎二で、慎二の新しい妹で、桜の新しい、家族だ」

「あ、そ」

 見てわかるほど不満そうに遠坂は気のない相槌を打つ。

「凛」

「なによ」

「俺はお前のことが好きだ。大好きだ。愛してる」

「なによ、酔払い」

「ふむ……」

 肩を抱き寄せてついで唇を重ねる。慎にされたようなキツイものではなく触れ合う程度のごく軽い口づけ。呆気にとられたような、不意打ちに憤るような、誤魔化されて怒っているような、そんな遠坂を見ながらなるほど、確かに酔っていると自分でも納得する。あまり愉快に酔える性質でもないが、それでも酩酊感に頭を揺らしながら薄くなった酒精を飲み下した。遠坂はしばらくグラスを見つめてから一気に飲み干しこちらに乱暴とすら言えるような勢いで差し出す。

 その様子に笑いをこらえながら俺はボトルを差し出した。

 

Interlude in

 

「あの、イリヤさん」

「なにかしら」

「姉さんは、あの……」

「まだよ。あなた、よっぽど嫌われたみたいね」

「……っ」

「イリヤスフィール……!」

「過保護に過ぎるといったでしょう、ライダー。あなたがサクラをそういう風に扱うのは決して愛ではないわ。誰かに対する代替感情。そうね、あなた自身かあなたのお姉さまかしら」

「何を……っ」

「本当にメンドクサイったら……ね、桜、あなた慎のこと好き?」

「……はい」

「慎二のことは?」

「……わかりません」

「本当に、そうかしら。はっきりと言えばいいのよ」

「わた、しは兄さんの、こと、が―――嫌いです」

「そう」

「だって兄さんは、私を打ったしすぐ怒ったし酷いこともたくさん……」

「そう」

「それ、に、結局最後まで―――」

「最後まで?」

「謝って、くれなかった」

「へぇ、それはそれは。流石に兄妹ね」

「……あの、今姉さんに声は届きますか」

「ええ」

「―――ごめんなさい、姉さん」

「はい、よくできました」

 

Interlude out

 

―――――翌朝 冬木市郊外 アインツベルン城跡近く

 まだ日も昇りきらないうちからイリヤに起こされ、冷え込む空気にコートの襟を立てて森に踏み入る。しかし、こんなところに来てどうするつもりなのか。そんな事を考えていると先に進むイリヤが声をかけてきた。

「ねえ、シロウ。ここに入るのはいつ以来?」

「あの戦争以来だから、もう何年になるかな……」

「あ、そ。ふぅん。私のお墓参りとか来てくれなかったんだ」

 いじけた様に、からかう様に言いながらすすすとこちらに体を寄せてくる。なるほど、それが目的というわけかと内心納得しているとイリヤの顔がこちらに寄せられ、いつの間にかその赤い瞳に俺の顔が写りこんでいた。

「ヒドイ、なぁ……」

 その声がウワンウワンと唸りを立てて頭の中で響き渡る。いつかのようにぐにゃりと景色が歪む。そして、そのしびれるような視界にイリヤのやわらかそうな唇が―――

「……なんてな」

「あら」

 軽くおどけて近づいてきたイリヤの肩を押さえて押し返す。

「昔ならともかくいまなら、この位は自力でレジストできるよ」

「あら、まぁ。なぁんだ、ちゃんと成長してるのね」

「何年たってると思っているんだよ。それに成長しなけりゃ遠坂に顔も向けられない」

「ふふ……。リンは厳しい?」

「結局俺の目指すところは根源じゃないわけだから、教えがいがないとは嘆いてたな」

「シロウは正義の味方になるんだもんね。でもアーチャーみたいになっちゃだめよ」

「もちろん。ハッピーエンドに向かって邁進中だ」

「案外ハーレムエンドだったりして、私も入れて?」

「まずはフラグを立てないとなぁ……何の話だ」

「何の話かしら」

 うふふ、あははと互いに笑いながら歩くうちに急に目の前が開ける。

 あの戦争の時に半壊したもののアインツベルンの城は数年を経て健在で、それでもやはり端々に風化の爪痕が刻まれ始めていた。だが、イリヤはかつての居城の現状よりも先に三つ並んだ土饅頭とその上に掲げられた木々で組まれた粗末な十字架、そしてそれらを守るように突き立てられた石造りの斧剣に釘づけになっていた。

 そのまま吸い寄せられるようにふらふらと斧剣に歩み寄り手を触れ、顔をつけ、体全体を預けるようにして動こうとしない。俺は立木に背中を預けながら彼女が満足するまでその様子を見守っていた。

 しばらくそのまま時間がすぎ、やがてイリヤがこちらに向かって振り返った。その顔はおそらくは笑顔であるのだがその中で色々と形容しがたい混乱した感情があるようでもあった。

「ありがとね、シロウ」

「斧剣は投影品だけど、お前を守るんならバーサーカーしかいないと思ってな。そんな偽物で悪いけど勘弁してくれよ」

 ありがとう、とイリヤは何度も繰り返す。

 そのうちに気恥ずかしくなってそれじゃあ、お礼に歌でも歌ってくれと言うとイリヤはくすぐったそうに笑ってから息を吸った。それを見ながら多分これが姉とはなす最後になるだろうと、うすぼんやりとした予感が頭をよぎる。

 そして森のしじまにセイレーンの歌声が響きわたった。

 

――――― 一年後 冬木市 柳洞寺地下 大空洞

 無事に解体も終わり、明日にはロンドンに戻ることになった。

 ここ自体、名残惜しい場所でもないがなぜここにいるのかと言えば、逃げ回っていたりするのだ、これが。

 事の始めは解体したその日のことであった。

臓硯さんは聖杯起動式が解体されたことをどうやってか知り得て、それを受け入れ、およそ五百年に及ぶ人生に幕を下ろした。崩れ果てた三要素を繋ぎ止めていた起動式が、もしくは炉心となっていたユスティーツア・リズライヒ・フォン・アインツベルンが、ついに消え去ったことが原因であろうがその貌は案外にすっきりしていた。ぽつりと「今少しであったが」なんて呟いたのは彼の最後の愛嬌であったような気がする。

問題はその後の台詞だ。

 

「では、孫たちの事を頼みましたぞ――――婿殿」

 

あの時は思わず吹き出してしまった。

それを聞いた慎と桜は顔を見合せ微笑み合うと

「これは遺言ということになるのかしらね、桜」

「そういうことになりますね、姉さん」

「遺言は守らないといけないわよね」

「全くその通りですね」

「それじゃあ、衛宮」

「先輩」

「よろしく」

「お願いします」

なんでそんなに息が合ってるんだ、お前らは。

心の底からそう言いたかった。だが、事態はそこまで悠長なものではなかった。

なぜって、この時遠坂も同席していたのだから。

後ろでぎゅいんぎゅいん妙なチャージ音を唸らせながらガンドの準備をしている遠坂。

にこにことほほ笑みながらにじり寄ってくる慎と桜。

間に挟まれる俺。

明日はどちらに行けば開けるのだろう。

これがおよそ一週間前。

その間逃げ回りつつチケット予約をしたり臓硯さんの葬式の手伝いをしたり遺産の総額に遠坂が思わずよだれを垂らしたり慎と桜を取り合ったりとまあ、色々あったわけである。 

要するに、大団円、というやつだ。

最終的にみんなが笑っている。

誰も彼もが幸せそうだ。

ご都合主義のハッピーエンド。

三流脚本家の陳腐なシナリオ。

使い古された絞めの文句が口をつく。

「そしてみんな末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」

おお、ゴッド。

サンキュー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――― 午前三時 ロンドン

『はろー、衛宮。元気?』

 随分と既視感を感じさせる状況であった。前回と違うのは電話の主が分かっていること位か。

「慎、いい加減こっちとの時差を考慮してくれ」

『何それ?それより、そっちに誰か来てない?』

「誰かって誰だよ」

『えっとね、薄墨色の着物着た和風美人。髪は私と似たような感じ』

「いや、来てないな。ついでに言えば心当たりもない。誰だ、それ」

『ん?あはは。来てないならいいよ。そういえば今度はいつ日本帰ってくるの?』

「その内にな」

『ん、待ってるから』

「ああ」

 受話器をもどしてベッドにもぐる。ううん。命題の答えはやはり、男女間では友情は成立しえないということに落ち付きそうな勢いだ。その場合、俺は多分身が持たない。

さて、しかし、和風美人。またぞろ厄介事であろうか。

 ちなみに今まで和服が一番似合っていると思ったのは正月の藤ねえだったりする。無論虎柄であったのだが元旦だけはきちんとお嬢となるあたりには一応の分別というものもあるのかもしれない。三が日を待たずに元の虎に戻ってしまったが。

 

――――翌日 午前十時 ロンドン

コンコンとノックの音が部屋に響いた。

今日の講義は休みであるしバイトも休み、遠坂は研究室に泊りこみということで昼までのんびりとしているつもりであったのだが、のぞき窓より見てみれば魚眼で歪んだ視界にオカッパの和風美人が立っていた。服装はどちらも色無地の薄墨の着物と銀鼠の被布。いっそ薄暗い雰囲気でさえあるが、陰鬱な感じではない。女性は返事がない事に手元のメモとこちらの部屋番号を確認してからもう一度コンコンとノックを繰り返した。

「どちら様でしょうか」

 念のため英語で呼びかける。

「む、婿殿、居られるなら早く開けてくれぬか」

 返事は日本語であったのだが、今、この人は何と言ったのか。

 ホワイ。

「あ、あの、臓硯さん?」

「うむ、いかにも」

 おお、ゴッド。

 これは約束を違えてミサをさぼった俺への天罰ですか。

「すいません。紅茶しかなくて」

「構わぬよ。儂は元々が西欧の出であるしの」

 いってこくこくとティーカップを傾ける臓硯さん。

 その容姿はなるほど確かに慎に酷似している。髪と眼の色はむしろ慎二に近い感じだが全体から受けるイメージは見た目の年齢に相反して、また言葉遣いに見合って非常に老成したものだ。しかし、あれか。間桐の家系は何かに呪われているのか。いやそもそも。

 死人が生き返るとはあり得ないにも程がある。

 臓硯さんに出来るのは延命であって反魂ではないはずだが。

「で、あの、その格好は?」

「言っておくが、幽霊ではないでの?これは蟲の寄せ集めじゃよ。前の体と同じじゃ」

「いえ、あの、なんていうか。―――なんで女性なんでしょうか」

「この歳になるともはや男だの女だのはどうでもよくなって喃。それにこちらの方が都合がいいのじゃよ」

「都合ですか」

「うむ。この身体を維持するには儂の魂は足りぬので他より補填する他ないのじゃが。所謂房中術じゃよ」

「―――ああ」

 あんまり、考えたくないなぁ。かつてカッコイイとあこがれた人が性転換して男を漁る姿。性転換した親友に迫られるよりうすら寒いものがある。

 そうか、なるほど。

 摩耗するとは、こういうことか

「流石に時計塔は生徒といえど優秀じゃの。向こう三カ月は大丈夫そうじゃ」

 しかも、その相手が顔見知りを含むとか、もう。俺は明日からどの面下げて時計塔に行けばいいのだろう。ごめんよ、皆。俺はどうしようも無く、無力だ。

「何をやってるんですか。ていうか、四十九日も過ぎてから何をしてるんですか」

「ふむ。儂もそのまま根源の渦に帰る気でおったのじゃがな。薄情にも孫らを捨てて異国に渡りよるのでな。連れ戻しにはせ参じた次第じゃ」

「ええと――――その、俺にはもう恋人がいるので」

「構わぬよ、別に。ちょちょいっと種を仕込んでくれれば」

「あのですね?!」

「減るものではなし、良いではないか」

「そういう訳には!」

「このままではアレらは一生独り身を貫きそうで喃。儂としてはせっかくであるし仔をなして貰いたいのじゃ。のう、婿殿」

「ですから、そういう訳にも行きませんよ」

「ふぅむ、手荒な事はしたくない喃。まあ、良いか」

「あの―――」

 ぼうと。気が遠くなる。中空に放り出されたように天地が目まぐるしく入れ替わる。見えるはずもない背後の景色が目の前に映し出され、見えているはずの眼前の臓硯さんが見えなくなる。背後から俺の心音が響き、足もとから体が消え、指先から熱が急速に失われていく。

「臓―――」

「ちなみに、今は硯と名乗っておる」

 その声は随分と艶めかしいものであった。

「――――」

「起きたか。婿殿。しかし、飛行機とは便利なものである喃。儂が日本に渡ったころは随分と長いこと船に揺られたものであったのに、今はほんの半日じゃ。いささか、魔術師であることに嫌気がさしてくる」

 脇で臓硯さんが英字新聞に目を通しながらそんなことを言っている。ここは、飛行機の様であるが、今どこを飛んでいるのだろう。ていうか、うん。キャスターの時から俺は何も進歩していないのか。後で遠坂にどやされる。

「って、遠坂!ぞ、臓硯さん。俺、帰ります!」

「まあ、落ち付きなさいよ。衛宮君」

「遠坂!?」

 臓硯さんの反対側、通路側の席で遠坂がえらく不機嫌そうに笑いながら座っていた。声が刺々しいにも程がある。

「アパートを出る折にはちあっての、せっかくであるからついてきてもらった。当事者同士での話し合いも確かに必要であるし、その方が婿殿も納得しやすいであろ?」

「そうよねぇ、衛宮君。はっきりと決着付けないとねぇ」

「いやいやいや!日本出る時にきちんと納得させたって言ったろうが?!遠坂!あれはなんだったんだ」

「うん、嘘」

「お、お前ってやつは……」

「所で婿殿。儂は少々腹が空いたのであるが。聊か吸わせては貰えぬか」

「ひぃ!?」

「あら、硯さん。はしたないですよ」

「食事であるよ、遠坂の。御主も魔術師なら承知であろう?」

「―――人の恋人に手を出さないでください」

「遠坂はケチくさくていかん。のう、婿殿?」

「衛宮君?」

 おお、ゴッド。

 これは試練でありましょうか。

 もう二度とミサなんて行かない。

臓硯さん越しに窓の外を見れば、真っ白な雲海と真っ青な空がどこまでも続いていた。ああ、雲も空もこんなに広いのに、なんで俺はこんなにも脂汗をにじませなければないないのか。世の中は決定的に俺に不公平に出来ている。

 

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